カメリア・カメオクリーム


portrait

 ルニ・トワゾ歌劇学園二年。愛称はリアム。
 声での表現を得意とするクラス、ココリコに所属し、舞台では主にダッキー及びクロウを務めている。
 いわゆるピーコックであるが、彼はある理由から「クロウ」──すなわち男役を演じることに固執しており、決して己をピーコックだとは自称しない。
 彼の母親は学生時代、とある女学生に恋をしていたのだと言う。叶わぬ恋だと悟っていた彼女は、せめてもの想い出にと相手の女学生とこんな約束を交わしたそうな。
 「いつか、この学園でまた会いましょう」と。相手の女学生の夢は、彼女らが通った女学園の教師になることだった。
 カメリア・カメオクリームは男である。
 彼の母親は、政略結婚の末に生まれた我が子が男児だったことにひどく落胆した。彼女は、生まれた我が子をかつての母校に入学させ、そこで教師になっているはずの初恋の相手に会うつもりに、何故だかいつの間にかすっかりなっていたのだから。
けれど、カメリアの母はその夢を諦めた。
 しかし、カメリアは母が不幸であることを察した。察せてしまった。
 だから彼は、物心ついてから今まで、母親の前では女のように振る舞った。それで何が変わるわけでもなかったが、それでも。変声期を迎えた頃には、極力言葉を発することさえ控えた。何も変わらなかった。母は上手く彼のことを愛せず、彼は上手く母のことを愛せなかった。
 やはり、カメリアの母は諦めた。
 きっとこの子には役者の才能があるからと、そう言って、彼女はルニ・トワゾの入学試験に受かったカメリアを莫大な資金と共にこの学園に残して去った。まるでもう二度と、迎えにこないような顔つきで。
 カメリアの悲嘆の演技は凄まじい。特に、悲しい恋物語などは、演じる彼の声を聞いた者は皆、その心にずたずたに引き裂いてしまうような心地さえした。
 彼はじきに、レイヴン、或いはスワンにも抜擢されるだろう。
 舞台の上は孤独だ。けれど、一人ではないことを、いつか彼に知ってもらえたならば。

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