エカルラート・エンバーラスト


portrait

 ルニ・トワゾ歌劇学園二年。
 身体での表現を得意とするクラス、クーデールに所属し、主に名前付きのクロウ、或いはレイヴンを担当している。
 スーパーモデルの母とハリウッド俳優の父を両親にもち、幼い頃から芸能界で育ってきた。一度役に入り込めばその熱量には脱帽するところがあるものの、モデル撮影や映画撮影のような瞬間を切り取る演技が不得手であるためにモデルも俳優も長続きせず、十三の頃、頭を悩ませた両親に連れられて観劇した劇団ロワゾの舞台に感銘を受け、ルニ・トワゾ入学に至る。
 ルニ・トワゾを受験するまでの間通っていた専門予備校では娘役を演じていたが、入学当日、クーデールの同期の面々を見た瞬間、まったく気軽な様子で男役に転身することを決め、長かった髪もその日の内に切ってしまった。曰く、「バランス悪く見えたので。明らかに男役が足りないでしょう? それに俺、主演をやる回数は多いに越したことはないと思うんですよね」である。
 エカルラートは基本的に事なかれ主義だ。彼は何を言われても、どのように焚き付けられてもにこにこと微笑み、その場をやり過ごす。だからといってエカルラートは他人の才能や存在を軽んじているわけでもなければ、しかし舞台役者であることに命を賭けているわけでもない。エカルラートにとって舞台役者であることは「当然」であり、そうある以上指導者から叱咤叱責を受け、仲間内から様々な感情をぶつけられることもまた当然なのである。彼は当たり前のことに感情を揺さぶられることを時間の無駄と感じており、その時間があるならば自分を高めるために研鑽を積むことだけを有益としている。ただ、彼もまだ十七の少年であるので、そう完全に切り離せるものではないらしく、声を荒げる場面も時には見られる。
 また、エカルラートは物腰柔らかで褒め上手だが、嫉妬深くもある。特に主演に対しては並々ならぬ執着を持っており、言葉にすることは少ないが主演以外にはほとんど興味がない。彼は常日頃から虎視眈々と主演の座を狙っており、もしも上級生が怠慢な態度を見せたとしたら、その卒業を待たずしてレイヴンの座を食い荒らすだろう。
 余談だが、エカルラートはクーデール──担任教師のガーネットを含め──の中で最も料理上手である。最近はカップケーキ作りに凝っているらしく、練習後にはよく振る舞ってくれるのだとか。

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