シナモン・シュガービート


portrait

 ルニ・トワゾ歌劇学園卒業生。元クーデールクラス。
 学生時代は主にスワンを務めており、現在は劇団ロワゾにて名前付きのダッキーを演じることが多い。また、ガーネット・カーディナル及びアンチック・アーティーチョークの一つ下の後輩でもある。
 かつてシナモンはクーデールが誇る名レイヴンであるジンジャー・シャトルーズのパートナースワンを務め、学生時代はジンジャー&シナモンとしてロワゾファンから絶大な人気を得ていたが、卒業後間も無くして相棒のジンジャーが劇団ロワゾを引退。それをきっかけにして残されたシナモンは今まで経験したことのないような低迷期に陥ることになる。
 これまでのようなスワンの役はレイヴンを失ったシナモンの元に巡ってはこず、回される役のほとんどは代役のスワンか名前付きのダッキーとなった。と、いうのも、シナモンは学生時代、ルビー・ルージュの指導にもきちんとついていく優秀な生徒であったが、一役者、ロワゾに所属するスワン個人としてはそれ以上でもそれ以下でもなかったのだ。クーデール然とした華あるスワンを求めるならガーネットが既におり、鮮烈な悪の美を求めるならルビーが、シナモンより個性的で話題性のある役者は彼の前にも後にもごまんといた。「シナモンはジンジャーがいなければ、ただ踊れるだけの役者だ」──これが彼に向けられたシナモン・シュガービートという役者への評価だった。
 シナモンは元来柔和で穏やかな性格の持ち主であるが、ルビー・ルージュの教え子らしいというべきか、彼はその言葉の中に時折棘にも似たプレッシャーを無自覚に滲ませることがある。ジンジャーを失い低迷期に陥った彼は一時期その面が前面に出てしまい、相手役のクロウや代役のレイヴンと息を合わせて踊ることができずに幾度も衝突をし続けた。一度などは互いに手が出る場面などもあり、シナモンというスワンの評価を下げた一因はこの辺りにも存在するのだろう。
 それでも、彼は辞めはしなかった。しかし決して、低迷期を抜けたわけではない。スワンの役が回ってこなくなっても、物語から名前を剥奪されても、世界の背景となっても彼は舞台の上で踊り続けた。踊り続けている。ある日、先輩であるガーネット・カーディナルが主演を務める『ヘルター・スケルター』を観劇したシナモンは、その帰り際、感想を問うた取材陣に対してにっこりとこう返した。「俺だったら、両脚を失ったくらいで踊るのを諦めたりはしないなあって思いました」
 彼は今も、劇団ロワゾで踊っている。これからも踊り続けるだろう。彼のような役者が再び羽を広げるとき、きっと、その羽ばたきに舞台は震撼するのだ。

- ナノ -