ルニ・トワゾ歌劇学園二年。愛称はミスト。
声による表現を得意としたクラス、ココリコに所属し、主にレイヴン及びクロウを担当する。
ミッドナイト家といえば、過去に没落した貴族の一つとして有名な一族である。
ただ、それも十九世紀頃の話で、現在は商家を営んでいるようだが、経営は厳しいらしく、ミスルトウの談ではよく家が傾いているらしい。たった一人の跡取り息子としてそれは大切に育てられたとのことだが、悲しきかな、ミスルトウは数字や記号がすこぶる苦手で、何度勉強して計算をしてみても、帳簿の合計が合うことはなかった。
ミスルトウは幼い頃より、聖歌隊の一員として歌を歌ってきた。
そんな彼が唯一得意とする記号は、「楽譜」と「歌詞」ばかりだった。困ったことに、自分はこれしかできない。歌を歌うことしかできないのだ。
そう父親に告げれば、父親は少し困った顔をしてから、そんなことはもうとっくの前から知っているという表情をして笑ったとか。
「ならば、歌ってみろ」。
その言葉に背を押されて、彼はルニ・トワゾの入学試験を受け、ココリコのクラスに選ばれた。
いつか劇団ロワゾの歌姫、「メルル」となって家を助ける。
その目標を胸に掲げる彼は、しかし自分は男役をすることが多いのだから、姫という言葉は性に合わない。いわば、歌王子だ。その場合の呼び名を考えておかなくては、と頭を悩ませている。
ミスルトウは過去、貴族だったことのある家庭に生まれたからだろうか、特有の雰囲気を漂わせており、平たく言ってしまえば、少しばかり天然である。
ミスルトウは実際のサイズよりも大きい制服を着用しているが、それはこれから身長が伸びても買い替えずに済むように、との考えらしい。貴族特有のオーラがある彼は、しかし貴族らしからぬほど努力家である。
きっと、彼の身長よりも彼の歌や演技の方が早く伸びていくだろう。
彼は椅子に座る者ではなく、舞台に立ち、椅子に座る者を思わず立ち上がらせる者なのだから。