マヨリカ・マトリョーシュカ


portrait

 劇団ロワゾ及びルニ・トワゾ歌劇学園専属トップヘアメイクアップアーティスト。主にレイヴン、スワン、ナイチンゲールなどの主演俳優のヘアデザイン並びにメイクアップを考案し、公演初日のヘアメイクアップを担当している。
 ルニ・トワゾ歌劇学園卒業生。元クーデールクラス。在学時代は主にクロウを担当していたが、卒業と共に表舞台からぱったりと姿を消し、数年後突如として再び劇団ロワゾに現れた際、彼は台本の代わりにヘアメイク道具を手にしては、専属ヘアメイクとして劇団へと入団した。
 行方知らずであった数年と同じほどの年月で、劇団ロワゾに所属するヘアメイクアップアーティストたちを指揮する立ち位置まで急速に上り詰めたマヨリカは、踊る代わりにハサミとコームを自由自在に動かし、スポットライトを浴びる代わりに無数の色彩を操って、劇団の役者を物語の住人へと華々しく変化させる。そのさまはまるで「変身」であり、「魔法」である。故に、彼はいつしか劇団員から愛を込めて「マジョリカ」と呼ばれるようになった。本人もその愛称は気に入っているようだ。
 また、劇団ロワゾの舞台役者であるマヨルカ・マトリョーシュカはマヨリカの双子の弟である。役者として内外に著名なマヨルカもまた、マヨリカに誘われたのがきっかけでルニ・トワゾに入学し、共に卒業をした人物であるが、双子とは思えないほどマヨリカとマヨルカの間には歴然とした実力差があり、それは彼らが卒業を果たすまで決して埋められることはなかった。
 そのため、マヨリカが卒業後に行方知らずになった際、弟のマヨルカに引け目を感じて姿を眩ませたのではないか、弟のせいで挫折をしたのではないか、弟を恨んでいるのではないか、と二人に関して様々な憶測が飛び交ったが、マヨリカはそんな噂に対して首を傾げ、「俺が元々やりたかったのは今の仕事。ルカは一人じゃなぁんも決めらんないから、兄キの俺が先導してやっただけだよ」と笑うだけである。その言葉すら、真偽は不明なのだ。ただ、はっきりとは名言しないものの、マヨリカの発する言葉の節々からは、マヨルカのことをじつにたいせつに想っていることが窺える。
 どちらが優れているかを議論するのは、時間を無駄に浪費させるだけに過ぎない。マヨルカは舞台役者として天性の華をもち、マヨリカはそんな役者たちの華を最も美しい姿で咲かせる天性の才をもっている。そのどちらかでも欠けれてしまえば、舞台は完成することがなくなってしまう。舞台は決して、役者だけで形作られるものではないのだ。
 余談だが、マヨリカは余計な色の影響を受けたくない、という理由でヘアメイク時には常に白一色で纏められた服装をしており、髪型はメイク道具を結び目に差すために三つ編みであることが多い。ヘアメイク後の彼の服や髪が様々な粉や染料で不思議な色合いに光り、染まっているさまは、さながら魔法の残り香を眺めているようで、その姿は劇団員からも好まれている。もちろん、この私もその一人だ。

- ナノ -