シスル・ティールグリーン


portrait

 ルニ・トワゾ歌劇学園二年。
 空間を利用した舞台づくりを得意とするクラス、アトモスに所属し、主にレイヴンおよび名前付きのクロウ、稀にダッキーを演じる。
 幼い頃、家族に連れられて観劇したことがきっかけで、劇団ロワゾの舞台に出会う。ロワゾの舞台を観てからというもの、暇さえあれば演劇ごっこをして遊んでいたシスルだったが、周りに演劇に興味がある者が家族を除いて誰一人存在しなかったために、彼は友人との時間どころか友人をほとんど作らない少年期を過ごした。
 しかし、いつしか遊びから一人稽古へと姿を変えたシスルの演劇ごっこは、金銭的な問題から教室に通ったわけでも、また舞台経験があるわけでもない彼を確かな情熱と共にルニ・トワゾ歌劇学園への入学へと導いた。
 入学までに膨大な数の本を読み、映像化されている過去の劇団ロワゾ公演のDVDを穴が開くほど観、何事もこつこつと、他人が怯むほどの努力を重ねることが得意なシスルは、物語に出てくる登場人物への理解が非常に深く、人物解釈に優れた役者である。
 けれども、そんな彼も一年次の半ばまでは名のある役を与えられることがなく、アンサンブルのダッキーばかりを演じていた。同期の生徒たちが名前付きの役に指名されるのを前に、焦燥と嫉妬に駆られた彼は、一時期中途退学を考えるほどに追い込まれた。
 そんなシスルに転機が訪れたのは、一年次の冬公演である。
 公演本番の一週間前、冬公演で名付きのクロウを担当していた生徒が高熱で倒れ、急遽代役が指名されることになった。
 担任教師であるアンチックは迷いのない様子でシスルを指名した。学祭公演から冬公演までの期間は、一か月半と非常に短い。そんな短期間に、アンサンブルキャストの中で「自分の台詞だけではなく全登場人物の台詞までを入れ、舞台の全容を把握していた」のはシスルだけであった。選択の余地はなかった。シスルは突如として、今までのダッキーを脱ぎ捨て、「街一番の色男」という役を演じることとなった。
 当然、公演までの怒涛の一週間には紆余曲折があった。けれども、当時の公演を観ればそれがその場でできた最善の選択で、公演は優勝さえ逃したものの、アンチックにとってもシスルにとっても大の付く成功だったことが分かる。
 シスルは舞台の上で驚くべき色香を放ち、そのどこか危なげな空気感や気怠げで濡れた表情などは、観客どころか同期先輩、教師陣をも魅了した。予告なく現れた「ルニ・トワゾの色男」にオーディエンスは大いに沸き、それまでほとんど無名だったシスルの名を求めて走った。
 それからというもの、彼は男役に転身し、現在は二枚目の役として非常に多く抜擢されている。
 なお、シスル本人の性格としては、一人の時間が多かった少年期を過ごしたためか、穏やかで内気──どちらかといえばシャイなほうである。もちろん、内に秘めているものは他の生徒に負けず劣らず熱いため、自身が初めてクロウを務めた冬公演の打ち上げでは泣いたり笑ったりと大忙しだったらしい。

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