ノワール・ノクテュルヌ


portrait

 ルニ・トワゾ歌劇学園三年。愛称はノア。
 声での表現を得意とするクラス、ココリコに所属し、舞台では主にレイヴンないしクロウ、及びナイチンゲールを演じるが、その例外も多いため「男女兼役」というよりは「役幅が広い」という意味で、彼のことはピーコックと表現すべきだろう。
 と、いうのも彼の武器はその「声」にある。ココリコクラスで学んでいるのだから当然といえば当然の話だが、しかしノワールは他のココリコ生に比べて長く音を保ったままビブラートを利かせられる音域が狭い。スワンやダッキーとして歌うには伸びず、レイヴンやクロウとして歌うには高い彼の声は、率直にいえば歌うことには向いていない。
 ゆえに、彼の武器は歌ではなく、主に劇中ないし歌中の台詞、歌以外の声での表現である。歌うことを目的としなければ、ノワールの声の演技は純粋な赤子の泣き声から老いた魔女の嗄れ声までと非常に振り幅が広く、色彩が豊かなのだ。
 また、ノワールは自らの歌を諦めたわけではない。著名なオペラ歌手を母に持つ彼は、一年時の前半までは名前付きのダッキーとしてソロで歌うことがあるほど、その歌声は自由で恵まれていた。しかし、二年に上がる前に変声期と急激な身体の成長を経たノワールは娘役を演じ続けることを断念し、男役へと転身した。けれどもそれからすぐに娘役とハーモニーを奏でる男役の低い音程が長く保てないことを自覚し、以降しばらくは自身の声の振り幅を生かしてアンサンブルキャストに徹した。
 ノワールがレイヴンとするには少し高い歌声と、低く歌うと掠れたようになってしまう自身の歌声を一種の色香と活かせる場所としてナイチンゲールを見出したのは、二年の後半である。自分の武器を自覚してからというもの、ノワールはナイチンゲールとしての出演が多くなっている。
 余談だが、ノワールはオペラ歌手の母の意向によって、空気が綺麗だとされるローレア最北部に暮らす祖父母のところに預けられて育った。そのため、ローレア最北部特有の言語訛りが激しく、入学時に同級生から数回聞き返されたことを気にして、担任教師のマドンナを参考に貴婦人のような標準語を保つことを目標に生活している。まだまだ修行途中ではあるようだが、それもまたノワールの一つの愛嬌ということだろう。

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