オウカ・オミナエシ


portrait

 劇団ロワゾ所属の舞台役者。主にスワンを担当し、時折ダッキーをも演じる。また、数年前までルニ・トワゾ歌劇学園にて、アトモスのクラス担任を長年務めていた。
 ロワゾにおける数少ない日本人役者の一人であると同時に、彼は日本の歌舞伎界では非常に著名な「片吟屋」、その十五代名跡の長子でもある。オウカの名を日本語で記すと、「女郎花鸚歌」と書く。
 オウカ・オミナエシという役者を語る上で欠かせない点と言えば、それはもちろん、彼がほとんど全盲に近い弱視と、加えて夜盲症の持ち主でありながらも、その驚くべき聴力から成る空間把握と感受性の豊かさを演技へと昇華する能力から、他の団員と比べても遜色のない──というよりは、生半可な決意で舞台に立つ役者とは到底比べ物にもならない、鬼気迫る演技をする、という点だろう。
 彼は片吟屋の生家にて歌舞伎を学んでいた頃から、身体的な不利を全く感じさせないどころか他と比べて頭一つ分や二つ分も抜きん出た演技、或いは舞踊を行っていた。しかし、そんな彼に恐るべき才能を感じた当代名跡が次期名跡にオウカ、と考えていることが幼い頃から聡かったオウカには言わずとも伝わったのだろう、彼は片吟屋の四百年の歴史から成る重責に耐えかねて、「もっと見聞を広げるために。片吟屋を守ってゆくために」との建前の元、家を飛び出してルニ・トワゾ歌劇学園の門戸を叩いた。学生時代、彼が所属したクラスもまたアトモスである。
 彼の中に様々な葛藤があったことは当然だろうが、ルニ・トワゾ時代、ロワゾ時代、教師時代を経て宣言通り「見聞を広げ」成長をした彼は、その新たな表現を家に持ち帰って「片吟屋」を継ぐか、それともロワゾに残ってロワゾの発展に貢献するかを決めあぐねている様子である。
 現在は劇団ロワゾにて舞台に立ちながらも、段々とその数を減らし、劇団の未来を担う若い団員たちの演技指導に尽力をしている。
 余談だが、オウカはマドンナと同時期にルニ・トワゾの教師となった、いわばマドンナの同期だ。ゆえに、彼もまた年齢不詳なのである。


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