ファイン・ストロベリーフィールド


 ルニ・トワゾ歌劇学園三年。
 独創性に富んだクラス、エグレットに所属し、主にダッキーを担当する。
 繊細な機微に富んだ演技に派手さはないが、けれども人間の感情を優れたバランス感覚で描き出すことのできる役者である。ただし、入学以来長く伸び悩んでおり、役者としてはもう一つ光るものがあれば、という状況が続いていた生徒でもある。
 彼自身はかなりはっきりとした性格をしており、言うべきことを言うべきときにばっさりと言い切ることができる生徒である。また、かなりのちゃっかり者ないし抜け目のない面も持ち合わせているため、エグレットの無理無謀無茶難題な予算申請がなんだかんだで通るのは、ひとえに彼の尽力のおかげとも言えよう。
 けれども、そのような性格に反して、ファインはおのれの生まれもった才能をおのれのものと数えるのが至極不得手であった。彼のもつ少女のような可憐な容姿や、舞台上で苦なく囁くことのできる喉という努力だけではどうにも手に入れがたい才を持ってしても、彼自身の「僕はなんて平凡なんだろう」という思い込みこそがいつも彼を凡才たらしめ、その酷く気にしいな心を焦燥感に襲わせていた。
 そんな彼は役者として学んでいく内に舞台美術、特に服飾の世界に興味を持ちはじめ、一年次の夏頃より公演で使用する衣装に関わりはじめ、二年次に入る頃には実際に製作に参加している。それらは大いに彼の心をくすぐり、いつしか彼の中で大きく膨れ上がっていった。
 実力と裏腹に微かな自信さえ持ち合わせないファインを勇気づけてくれたのは、いつでも役に相応しい衣装たちだった。ドレスに袖を通したときの高揚こそが、彼を物語の中で生きるダッキーたらしめていた。
 そして或る日、彼は自分自身にこう問うてしまったらしい。「お前、ほんとうに物語のために死ねる?」と。
 それでは、今のファイン・ストロベリーフィールドの話に移ろう。
 ルニ・トワゾのエグレットクラスで三年生となる彼は、二年次の学祭公演で素晴らしいスワンを演じたきり、ほとんど舞台には立っていない。代わりに、現在は主に季節公演にてエグレットクラスが用いる衣装を監修、製作している。
 彼が進路を決定する頃の彼と担任のダリア・ダックブルー、そして彼の両親の間にあった数度の面談についてファインは多くを語らないが、談話室の扉の向こうから洩れる、囁きでも不思議と響く彼の母親の朗らかな声を聞いた生徒は少なくない。
 彼の担任はよくこんな言葉を口にする。「やりたいときに、やりたいことを全力でやればいいんだよ。夢中でやったものは、誰かが夢中になって見てくれるものさ」。
 そう、どのような方向にだって羽ばたいていけるのだ。ここは、自由な鳥たちの学園、ルニ・トワゾであるのだから。


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