イレイザ・メテオブライト


portrait

 ルニ・トワゾ歌劇学園三年。
 独創性に富んだクラス、エグレットに所属し、主に名前付きのクロウを担当する。
 イレイザは入学当初から役者として実力者であり、というのも──無論、彼の生来の才と日々の弛まぬ研鑽が実を結ぶことに最も貢献したのは確かであるが──彼の師は劇団ロワゾでかつてメルルと称されていた元スワンのマリアンヌ・デュアメルであるのだ。そんなマリアンヌの教え子であるイレイザは、ルニ・トワゾ入学前までは女役のみを務めていたが、一年次の春公演を最後に女役を降り、現在は役柄を男役のみに絞っている。
 幼い頃に両親を亡くした彼には、身を寄せ合って共に暮らしてきた五つ年の離れた姉があり、彼をこの演劇の果てなき道に誘ったのもその姉であったとか。 
 曰く、イレイザの姉は少々の頃より心臓が弱く、その人生のほとんどの時間をベッドの上で過ごしている。そんな彼女の病状が最も芳しくなかった頃、イレイザは姉の好んでいた小説の代読を始めたという。次いで、その様子を目に止め、自分の元で演劇を学ぶように声をかけたのが、彼の師、マリアンヌ・デュアメルであったのだ。この話に乗り気だったのはイレイザ自身というよりは、彼の姉の方だったらしい。
 そのようにして勧められるように舞台に立ったイレイザだったが、しかし自分の初舞台のDVDを見た姉──彼女はどんなときでも気丈に振る舞い、微笑みを絶やさなかった──が涙を流したことがきっかけで、彼は取り憑かれたように演劇にのめり込むようになったという。
 私も少年歌劇を愛する者の一員として、まだ十歳ほどだったイレイザの舞台を観劇したことがあるが、彼からこの話を聞いた今ではこう感じる。なるほど、彼が演じた女役が、十歳そこそこの少年が演じるにはあまりにも幽玄で、妖艶で、儚げだったのは、きっとまさしくそれが、それこそが彼の理想の投影であったからなのだろう、と。
 そして、二次性徴によって拒食に陥るほどに苦悩した時期があったのも、おそらくは。
 前述した通り、イレイザは一年次の春公演を最後として女役を、すっかり骨の髄まで染み込んでいたスワンとしての在り方さえも全て捨てて男役のクロウへと転身している。その理由もやはり本質的な部分は姉から生じるようだが、詳しいところは不明、ということにしておこうと思う。
 きっと、自分のかたちを無理やりに変えることだけが演劇ではない、ということを彼の姉は知っているのだろう。最近はルニ・トワゾまで足を運べるほどに体調が回復した彼女は、イレイザの演じるクロウをいたく気に入っているそうだ。


character design & base text @mud_0925

- ナノ -