ラフス=ククラトス・ラマージュ


portrait

 楽団ラマージュの現楽団長であり、作曲家兼首席指揮者兼音楽総監督を務めている。
 子宝に恵まれなかったラマージュ総本家今代の養子として二歳の頃にラマージュ家に引き取られ、まるで実の子のように育てられたラフスは、自分の名前の次にドレミの音階を覚え、言葉より先に家の中に流れる音楽のメロディを覚え、文字を読むより早く楽譜の読み方と音楽記号を覚えた。
 血縁でないことを誰かが揶揄するよりも前に、或いはそれを忘れてしまうほどの速度で彼は音楽家としてめざましく成長をし続け、十五歳という若さで楽団ラマージュの楽団長に就任した。
 四歳の頃には交響曲の第四楽章を作曲したラフスの交響曲第一番『クララ』はあまりにも有名だが、本人曰く、本当は『ククラ』という題名にしたかったのだとか。彼の文字は幼い頃から、少々読みにくいものであるから。
 そのような生い立ちであるからか、彼は実力さえあれば、出自や経歴は問わずに楽団ラマージュへと引き入れる。それは裏を返せば、どのような偉大なる家系の出身や学校の卒業者であろうとも、ラフスが実力なしと判断すれば門前払い、また一から研鑽の積み直しということになるのだ。ラフスは明るく、ユーモアに富んだ振る舞いを常としているが、こと音楽に関しては悪魔のように厳しい。
 また、ラフスは同い年ということもあってか、本校のダリア・ダックブルーと仲が良く、頻繁に学園を訪れてはダリアと公演の打ち合わせをするついでに、楽器の演奏や作曲に秀でた生徒を引き抜いていこうとしている。芸術に対して狂気的な熱量を向けるところや才能がある者に対して見境がないところなど、周囲には二人がよく似ているように映るため、ラマージュにおけるダリア・ダックブルーがラフス=ククラトス・ラマージュであり、劇団ロワゾにおけるラフス=ククラトス・ラマージュがダリア・ダックブルーなのであると、双方ではよく囁かれているらしい。
 なお、ラフスは出身や育ちもローレアであるのだが、幼少期から様々な国を見聞と演奏会のために転々としていた。それゆえ彼は、自称「あまりローレアの言葉が堪能ではないから」という理由で、少し不思議なイントネーションでローレア語を話す。
 余談だが、すべての人に音楽を諦めないでほしいと願う彼は、よく各国を巡り、無償の演奏会ないし講習会、リハビリテーション支援事業などを行なっている。その活動のきっかけになったのは、不運な事故で利き腕を失い、自ら死を選んだという彼の親友に起因するらしいが、彼はあまりその多くを語ろうとはしない。だが、ラマージュには、そんな彼の活動によって奏者となったり、奏者として復帰する人間もまた多く存在する。

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