キャメル・キャンティクラシコ


portrait

 ルニ・トワゾ歌劇学園三年。
 空間を利用した舞台づくりを得意とするクラス、アトモスに所属し、主にレイヴンおよびナイチンゲールを担当する。
 元朗読家であり現在は宇宙飛行士をしている著名な飛行士、キャラバン・キャンティクラシコを母親に持ち、幼い頃から物語と宇宙という広大な空間を隣人として育った。
 物心つく前に両親が離婚し、ISSにて長期滞在をしているキャラバンとは離れて暮らしがちだが、母親のことはいたく尊敬している。また、彼は母親が定期的にISSから世界へ発信する、「キャラバン・キャンティクラシコの宇宙朗読劇」の第一ファンである。
 キャメルは息継ぎ、呼吸、沈黙、台詞を発するときの間、動作へ移るときの間、とにかく「空白」の扱いに長けた役者だ。それは彼が幼少期から母の朗読を聞いて育ち、そして、宇宙という底知れぬ世界を夢想するのではなく、事実そこにある空間として接していたからなのかもしれない。
 しかし、キャメルはストレス──特に精神的な負荷にすこぶる弱い。宇宙飛行士を母に持つ彼の中には常に「失敗=死」という数式が渦巻いている。母の搭乗するロケットが飛び立つ前の緊張、また着水する前の緊張、それより更に前、母が任務にアサインされたときの緊張、その緊張にキャメルは耐えられない。聞いていられず、見ていられず、失神するほどに。ゆえに彼は、「観ている側」でいることができない。緊張の内側へ入り、慌ただしく狂乱の中にいることでしか、自分を保って生きていくことができないのだ。
 彼が初めてレイヴンに指名されたときなどは、キャメルはその場でぱったりと倒れ眠り込むほどであったが、ルニ・トワゾで日々を送るうちに、そういった過眠の気は薄れていっているようである。
 余談だが、キャメル自身はのんびりとした性格だ。けれども彼は頭の回転が速く、自分の興味のある分野の話になると、異様に早口になる面がある。

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