ミリアン・バーム


 ルニ・トワゾ歌劇学園三年。
 身体での表現を得意とするクラス、クーデールに所属し、名前付き、名前無しにかかわらず主にダッキー及びナイチンゲール・ダッキーを担当する。
 主演には勝らないが、けれども妙に記憶に残るダッキーとしてよく名の挙がる役者であるミリアンは、蠱惑的で小悪魔めいたダッキーを演じることもあれば、ナイチンゲールに傅いては打ち捨てられ絶望するナイチンゲール・ダッキーを演じることもあり、ダッキーとしての役の幅が広く、舞台上で様々な「かわい子ちゃん」を演じてみせる。
 本人の性格は明るく、元気と評するよりはパワフルと言うべきで、感情表現に大袈裟な面が往々にして見られる。また、派手な外見に反して責任感が強く、真面目。特にダンスに関しては基礎を何よりも重んじており、驚くほどにストイックである。
 ゆえに騙されやすく、更には絆されやすい一面もあるため、彼の担任であるガーネットは若干の心配性をミリアンに向けているようだった。それはミリアンが、あの悪名高きルビー・ルージュの大ファンだからという点も大きいだろう。
 幼い頃から姉と共にジャズダンススクールに通い、幾度かショーケースに立つ機会もあったものの、しかしセンターポジションに立てたことはただの一度としてなかったミリアンは、その悔しさから何度も涙を流し、惨めさに打ち拉がれたこともあったが、それでも踊ることを諦めず、自らの足を止めなかったのは正しく彼自身の強さであるだろう。
 そのダンスに賭ける情熱と生粋の生真面目さによって練習を怠らなかった彼は、周りの、特にステージの中心に立つ者を観察し、何故自分は向こうではなく、このポジション、「ここ」を与えられたのかを考え、噛み砕き、呑み込んでは踊ることに全力を注いできた。
 そしてそれは、現在のルニ・トワゾでも同じことである。
 自分の役が物語の中でどう作用するのかを考え、噛み砕き、呑み込んでは舞台上で踊り、演じることに全力を尽くす。それこそが完ぺきなつま先立ちを怠らない、ミリアン・バームのスタイルである。
 彼はその身をもって知っている。物語の中心にはなれなくとも、自分が、誰かが一人でも欠けてはその舞台は成り立たないのだということを。舞台は、物語は決して、一人きりではつくり上げることができないのだということを。
 余談として、ミリアンは二年に上がる頃より振付に興味を持ちはじめ、自身のソロはもちろんのこと、群舞の振付を自らで考え、担任教師に提案することもある。彼が新たな才能で羽ばたくさまを見逃したくなくば、無論、我々もしてみるべきだろう。つま先立ち、というものを。


character design & base text @hasu_mukai

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