モード・モーニングローリー


portrait

 ルニ・トワゾ歌劇学園二年。
 声での表現を得意としたクラス、ココリコに所属し、主にスワン及びダッキーを担当する。
 彼の生家であるモーニングローリー家といえば、その長い歴史の中で幾人もの著名人を輩出させてきた名高き貴族の家系として有名である。
 モードはそんなモーニングローリー家の一員として生まれたものの、けれども五男という立ち位置ゆえに他の兄弟とは異なり、周囲から過度な期待や重圧を掛けられることなく家族たちから愛され──本人にしてみれば、それはぬるま湯で甘やかされているようなものだったと言うが──育ってきた。
 そんな彼の性格からも分かるように、モード本人は向上心が高く勤勉で、基本的にはどのようなことでもそつなくこなしてみせる。しかし、彼曰く、彼の両親や兄たちは彼の見せた目を見張るような成果ですらも、真には評価しない。或いは、評価しようとしない。ないし、理解しようとしない。彼の家族にとっては、彼が「かわいい五男坊のモード」でさえあれば、巣から飛び立てない雛鳥でも、逞しい翼で空を駆ける大鷲でも構わないのだ。どこの世界でも親鳥というものは、自分の子に対して少しばかり視野が狭くなるものである。
 しかし、そんな彼のぬるま湯めいた生活に文字通り終止符が打たれたのは、とある聖歌隊のコンサートを聴きに行った日であった。モードはそこに所属している自分と同じ歳の、没落貴族の不器用極まりない少年のことを見下していた。完全に。
 その歌を聴くまでは。
 そこで響き渡る幼いミスルトウ・ミッドナイトの歌声は、現在に比べてみればまだまだ拙く荒削りなものであっただろう。それでも、モード・モーニングローリーは彼の歌に魅了された。完全に。
 数字や歴史、言語学や哲学とばかり向き合ってきた彼は、その日を境にしてたちまち芸術の虜になった。
 彼のように歌いたい。彼より上手く歌いたい。
 自分の歌を聴いてほしい。
 そんな自分の思いを、経験を、価値を、今日も彼は声に乗せている。それは世界一難しくて、世界一楽しい歌を歌うために。
 歌というものは、いつでも真っ直ぐに人の心に届くものである。
 ゆえに、私は思う。
 いつか、彼の歌声が観客だけでなく、彼の家族の琴線に触れ、その心を大きく揺り動かすのだろう、と。そこで彼の家族は、ほんとうのモード・モーニングローリーの姿を目の当たりにするのだ。強く美しい、夜明けの歌声と共に。


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