ホワイト・ファーストフロスト


portrait

 ルニ・トワゾ歌劇学園三年。愛称はワイツ。
 声での表現が得意なクラス、ココリコに所属し、主にスワン及び名前付きのダッキーを担当する。
 声を使った表現の中でも、彼は特に歌唱に特化しており、気を抜くと所構わず歌の練習ばかりに傾倒するため、しばしば「動く蓄音器」などと揶揄られがちである。本人は「せめてハイレゾ音源と呼んでくれ」とのことだ。
 また、いつでもどこでも練習を行うため、当然他のクラスへのネタバレを嫌う担任教師のマドンナにはよく叱られており、その練習によってすぐに制服を汚すため、クラスメイトにも叱られている。彼はお人好しであるが、彼もまた様々な相手から世話を焼かれているらしい。
 本人はあまり明言しないが、五年前に火災事故で両親を亡くしている。
 近しい血縁者がなかったため、ルニ・トワゾに入学するまでの数年間を孤児院で過ごし、そこで音楽、特に歌劇に目覚める。元々口数の多い子どもではなかったホワイトは、歌に言葉を乗せることで己の感情表現の方法を得たのだ。
 彼は詩に、物語に、歌に、感情を乗せることによって声で泣くことができた。笑うことができた。叫ぶことができた。彼はその術を得た瞬間、両親を失って初めて息をしている気がした、と。これは本人の談である。
 それからというもの、孤児院を抜け出してはいたるところでゲリラ公演を一人で行っていたホワイトは、ふと、ある声にこう言われたらしい。
「良い歌声。ちゃんと勉強したら、もっと良くなるのに」。
 姿の見えないその声は少女のような、少年のような声だった。ただ、水晶のような声だった、とホワイトは語る。彼女ないし彼の言葉によって、ホワイトは「歌を勉強できる場所がある」ということを知り、ルニ・トワゾへの入学を志したのだとか。
 そうして彼は数年かけて歌劇の勉強に独学で励み、入学費用の掛からない特待生として見事この学園に入学したのだった。
 彼は様々な歌を様々な声で歌う。
 特に耳に残るのは、まるで少女のような声で彼の喉が絞り出す、絶唱だった。
 ホワイトが発する雪の声の中には、ひどく人間らしい、泥に塗れた炎がある。

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