ルビー・ルージュ


portrait

 劇団ロワゾ所属の舞台役者。
 ピーコックのナイチンゲールとして非常に多くの舞台に出演しており、数年前まではルニ・トワゾ歌劇学園にてクーデールのクラス担任を務めていた。元々クーデール出身のガーネットとアンチックは彼の元教え子でもある。
 ルニ・トワゾ担任時代のルビーが行う指導は、精神的にも肉体的にも過酷なものであった故、中退者が続出したが、しかし彼の元を晴れて卒業できた者はことごとく成功を収めていたため、それでも尚ルビーのクーデールを志願する者の数は減らなかった。今でも受験生やその保護者たちからルビーの復帰を願う声があるが、彼の卒業生たちは口を揃えて「二度と復職をするな」と言っている。
 ルビーは自分を「ナイチンゲール」しかできない役者だと断じており、それと同じく、ガーネットのことも「主演」しかできない役者であると言い切っている。そんなある種自分と同系統の役者であり、また自分の元を卒業し、名声を手に入れたガーネットのことを彼は心底気に入っており、彼なりのやり方でかわいがっているらしいが、そのかわいがり方が悪趣味なためにガーネットからは嫌煙されている。
 好きな相手ほどいじめたくなる人間というのは世界に一定数存在するが、ルビーの場合は気に入った相手ほど崖から蹴落とし、這い上がってくるさまを眺め楽しみ、相手に噛みつかれれば噛みつかれるほど喜ぶという、救いがたい嗜好の持ち主だ。性根までナイチンゲールを徹底しているため、最早演技なのではないか、と疑われるほどである。
 ルビーはとにかく「笑い」の演技が凄まじい。
 ふうっと息を吐くような静かな嘲笑から、劇場を揺るがす気狂いめいた高笑いまで、ナイチンゲールとして笑わせたならば観客はいつでも最悪の気分で熱狂することができるのだ。彼は特にたかの外れたナイチンゲールや常軌を逸したナイチンゲールを物語の中で担っている。
 余談だが、彼はひどい不幸体質であり、母国である中国で十八歳の頃、結婚詐欺に遭った上に無差別放火によって唯一の肉親である母親を失っている。その際、破壊衝動に駆られ、犯罪に手を染めそうになっていた彼を見出して劇団へ放り込んだ人物がいた。現メルルのマドンナ・マジェンダである。故に、マドンナはルビーが唯一頭の上がらない人物としても名高いのだ。

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