ロータス・ロンサール


portrait

 ルニ・トワゾ歌劇学園三年。
 独創性に富んだクラス、エグレットに所属し、レイヴンやスワンを兼任しているピーコックである。
 また、ロンサール家はココリコの担任教師であるマドンナの親戚に当たる。
 物心がついた頃から器用で、どのようなことでも大抵はそつなくこなせていたが、そのために何をしてもいまいち身が入らず、無気力な中学時代を送る。マドンナが著名な舞台役者であることは知っていたが、彼の舞台を見ても特に何も思わず、しかし他にやりたいこともなかったため、マドンナに言われるままにルニ・トワゾの入学試験を受ける。
 それから一ヶ月ほど経った頃だろうか、彼は演じるということの難しさに、人生で初めての挫折をした。
 何を演じようとしても思うようにいかず、文字通り、彼は頭を抱えた。
 ロータス・ロンサールはマドンナの後ろ盾で入学したのではないか。
 謂れのない噂である。が、しかし、今までそんな後ろ指を差されることのなかった彼は、そこで退学を考えるほどの傷を負った。
 けれども、彼は傷を負って逃げるだけの人間ではなかった。
 彼は腹を立てた。すこぶる腹を立てた。今まで彼が覚えたことのない煮えたぎる感情が、彼を駆り立て、練習に打ち込ませた。実際、彼は途方もない時間を練習に費やしたのだ。一年の夏公演、エグレットの舞台でレイヴンに抜擢されるほどに。
 その公演を終えて、彼は初めて面白いと思ったのだ。舞台を。歌を。劇を。そこで紡がれる物語を。
 自分がマドンナの舞台に食指を動かされなかった理由を、彼はそこで気がついた。
 己は演じたいのだ、と。見るのではなく、ただこのように、ひたすら演じたいのだ、と。
 ロータス・ロンサールはマドンナの後ろ盾で入学したのではないか。
 そんなことを言う人間は、最早存在しない。
 彼はもう、その指先ひとつで、そんな観客たちを黙らせることができるのだから。

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