ベロニカ・ベロネーゼ


portrait

 ルニ・トワゾ歌劇学園一年。
 身体での表現を得意とするクラス、クーデールに所属し、主にクロウを担当している。
 ダンサーとして著名なベロネーゼ夫妻の元に生まれる。
 ダンスに関するものなら何をねだっても際限なく買い与えられ、一人息子としてほとんど不自由のないよう大切に育てられてきたが、両親はベロニカ自身よりも「ベロニカのダンス」にしか興味がないふうに当人には感じられていたため、自分にはダンス以外の価値がないと思っている。
 ゆえに、彼は己のダンスに高いプライドを持っている。
 ベロニカはダンスならば、一度見ただけで振りを覚え、コピーダンスをすることができる。
 また、彼の踊り方は、明らかにベロネーゼ夫妻のそれを模したものであった。
 そんな彼のダンスを見た担任教師であるガーネットは、入学早々ベロニカに「自分で考えて踊れ。お前は鏡か? 欲がなさすぎる。ここはダンス教室じゃない」と一蹴し、その言葉にベロニカは大いに傷つくと共に内心憤慨した。そんなベロニカに、中には同情や理解を示そうとする上級生もいた。
 新人公演で主演に抜擢されなかったことも彼にダメージを与えたらしく、ベロニカが授業以外でガーネットの言うことを聞くことはほとんどない。
 ベロニカはよく空気を読んで生活している。とにかく両親の機嫌を取って、うまく生活をしていくことを重じていた彼は、ダンス以外にプライドがない、と自分自身で断じてさえいる。同級生の頼みをよく聞き、上級生によく懐く彼を、しかし「微妙に底が知れない」と言って怖れる者もいた。
 自分で考えて踊る。そして、欲。
 ベロニカは現状、ガーネットを黙らせたい一心で踊っている。それがどう転ぶかは分からないが、最近の彼のダンスはベロネーゼ夫妻のものとは段々と異なるものへと変化しているようだった。
 余談だが、彼は恋愛小説に幼い頃から執心していて、「恋」の演技が上手い。彼は恋愛小説を両親に黙って何冊も何冊も買い漁り、学園にも今まで買った小説たちを全て持ち込んでいる。
 そして、誰かが恋話をしているところには、大抵彼の姿があるのだった。

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