ヴェニット・ヴェローナ


portrait

 ルニ・トワゾ歌劇学園二年。
 身体での表現を得意とするクラス、クーデールに所属し、これまでの公演で幾度かスワン、あるいは名前付きのダッキーとして抜擢される。
 学園内で唯一の双子の兄弟をもつ生徒であり、クーデールに組分けられたヴェニットに対して兄のヴェスタは独創性に富んだクラス、エグレットに所属している。
 彼らは非常に仲の良い双子の兄弟であるが、しかし別々のクラスに組み分けられたことに対しては特にこれといった不満もないようである。一日の学業を終えた後は、片方の寮部屋に訪れ、そこで寝泊りしていることも多い。
 両者とも好奇心が旺盛で、変装しては互いのクラスで入れ替わって授業を受けようとすることがあるが、そのたびに教師に見破られるので二人は首を傾げているらしい。どうも、これまでは見破られたことがなかったのだとか。
 二人は学園の入学試験を受ける前、将来共に何になるかを相談していたらしい。
 ヴェスタは手品師や詐欺師を提案し、ヴェニットは役者や博打師を提案した。
 それからカードゲームをして、勝ったヴェニットがその四つの選択肢の中から「役者」を選び取った。なんだかそれが、一番長く楽しめそうな気がしたからである。これはヴェニットの談だ。
 また、兄のヴェスタは息を合わせるのが得意で、弟のヴェニットは息を合わせてもらうのが得意な役者だ。
 確かに、二人が一つの舞台に立てば、それは見ていてじつに気持ちが良い、統率の取れた劇になるだろう。彼らはすでに、その能力を持っていた。
 けれども、それだけでは役者として舞台に立ち続けることは難しい。
 たったそれだけでは、この世界では生きていくことができない。生きていけなければ、二人の望む「長く楽しむ」という夢が潰えることになる。そう説かれた彼らは顔を見合わせた後、納得したようににっこりと微笑んだのだった。

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