ルニ・トワゾ歌劇学園は全寮制の学園である。特別な事情がない限り、生徒たちはその三年間を学園内にある寮で寝泊まりをして生活することになる。
 寮部屋は原則として一人一部屋を与えられ、三年間は自由に使うことができる。度の過ぎない範囲であれば何を置こうが飾ろうが散らかそうが自由なので、生徒によって様々な個性が出るのが常だ。
 寮はクラスごとに分かれてはいるが、建物自体は同一で四階建てである。何年生が何階の部屋を使用するという一定の決まりはなく、本人の希望や空き部屋の場所を加味して部屋割りをクラスの担任教師が決定している。
 まず寮に入ってすぐ目に入るのは中央広間であり、そこから東、北東、北西、西の四方向に階段が伸びている。東の階段を上った先には「エグレット」の生徒が使用する部屋が二階、三階、四階と続き、同じように北東には「クーデール」の生徒、北西には「ココリコ」、そして西には「アトモス」の生徒の部屋がある。クラスによって寮の雰囲気もかなり異なるため、自分の寮以外の階段を初めて上る生徒は、そのギャップに驚くことも多々あるだろう。
 たとえばココリコの寮は薄紫色の大振りな花柄の壁に、白の天井。アーモンド色の床にゴブラン織の絨毯が敷かれ、ベルベットのカーテンは紅く、上品かつ華やかだ。ロココ調のインテリアがそこここに置かれ、それらはシックなマホガニーで揃えられている。
 エグレットの寮もまたココリコに近いインテリアだが、白に近い水色の小花柄をした壁に、部屋によっては天井画が描かれているところもある。ダークブラウンの床に、落ち着いたグレーの絨毯。カーテンは深い青だ。置かれている家具は白地に金色の装飾を施したものが多く、足を踏み入れた者に高貴で広いイメージを与えることが多い。
 ココリコ寮もエグレット寮もあちこちにシャンデリアが飾られているため、夜も他の寮より明るく、歩けばどこからともなく花の香りや紅茶の香りが漂ってくるものだ。ちなみに、よく分からない置物や剥製が飾られているのはエグレットのみである。
 クーデール寮の内装は上記二つの寮に対してがらりと異なり、言わばレトロモダンである。柔いクリーム色の壁紙はうっすらと唐草模様が描かれ、天井は同色で揃えられている。つるりとしたブラウン木目のフローリングには、オリエンタルな赤い絨毯が敷かれ、磨り硝子の襖や畳のある部屋を見ることができるのはこの寮だけだった。線の細い家具や大振りのソファが辺りに雑多に置かれているが、妙に統一感があるのもこの寮の特徴だ。
 最後に、アトモス寮。こちらも他三つとは異なる内装をしている。クーデールがレトロモダンであるならば、アトモスはアンティーク家具を設え、暖かみとどこか懐かしさのある雰囲気を全体に纏っている。家具はウォルナットをメインに揃えられ、壁は白くシンプルに、床は家具の色に合わせてダーク寄りのブラウンである。絨毯は無地の深緑で、辺りには学生たちが集めてきたアメリカンアンティークや、古いレコードなどが飾られている。ポスターや本が歴代の生徒たちによって貼られ積まれをしているアトモス寮は、ちょっとした雑貨店の様相を成している。
 尚、担任教師たちの自室も各寮にあり、場所は三階の最奥である。生徒よりもよほど部屋を散らかしている教師もいるため、頭が痛いところだ。
 また、同じく各寮の三階には、クラスごとに談話室が用意されている。消灯時間までの間、ここでしばしの談笑にふけるのも良いだろう。
 ちなみに消灯時間は午後二十二時となっているが、あまり守る者は多くない。教師の方が守ることが少ないのだから、こちらから生徒に対して強く言えないのが悩みの種である。

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