卒業及び卒業記念品


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 ルニ・トワゾ歌劇学園における卒業とは、三年間の学業課程を修め終えたのち、ルニ・トワゾ公演の卒業公演「トワゾ・ド・パサージュ」の舞台に立ってルニ・トワゾの学生役者としての最後を華々しく飾ることを意味する。
 そして、「トワゾ・ド・パサージュ」の幕が下りると共に、その舞台に立った卒業生の生徒たちは皆等しく劇団ロワゾへの入団の権利が与えられる。
 ルニ・トワゾ歌劇学園では、卒業公演閉幕後のカーテンコールが卒業証書授与式に等しい。卒業生たちは観客たちからの喝采を受けながら、クラスごとに一人ひとり担任教師にその名を呼ばれ、各々が観客へ挨拶をし、最後には一クラスが舞台の上に横並びになって、代表者──主に卒業公演でのレイヴンである場合が多い──が観客に向かって三年間の謝辞を述べる。
 また、卒業生として名を呼ばれた生徒に手渡されるのは、何も卒業証書だけではない。学園生活の中で幾多の選択を迫られてきた彼らは、卒業式の最中でも或る選択をしなければならない。
 まず、劇団ロワゾへ入団するか、しないか?
 そして、入団後、自分が志すのはどの鳥か?
 名を呼ばれた卒業生の前には、幾つかの選択肢が形を成して目の前に並べられる。ブラックオパールの飾られた黒いネクタイ、ムーンストーンの飾られた白いリボン、アズロマラカイトの飾られた紫のスカーフ、そして、スワロフスキークリスタルで作られた鳥のブローチ。
 卒業生たちは一人ひとりがそれぞれ、その中の一つを選び取る。劇団ロワゾに入団し、レイヴンないしクロウを志す者はネクタイを、スワンないしダッキーを志す者はリボンを、ピーコックを志す者はスカーフを、そして、入団を辞退する者はブローチを。
 それらの記念品は、劇場のスポットライトを浴びてきらりきらりと輝きながら、卒業生たちの門出を祝う。笑顔のように、涙のように、喝采のように。
 スポットライトだけではなく、太陽や月明かりにも光る宝石たちは、劇団ロワゾへの入団する者だけではなく、入団を辞退した卒業生と、そしてそんな彼らの隣を通りすがった人々にこんなことをこっそりと囁くだろう。
 ──この人は光を浴びて輝く鳥、かつても今もその人なのよ=Aと。

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