メルル


 劇団ロワゾ及びルニ・トワゾ歌劇学園における「歌姫」を意味するが、「メルル」という名称を劇団内で役割名として用いることは少なく、いわゆるメルルとは主に観客の声によって自然と生み出された「素晴らしい歌声を持つ役者」に対する敬意の呼び名である。
 語源としては、おそらく劇団ロワゾで歌姫として名高かった「メリル・メープル」の愛称であった「メルル」が由来とされてるのではないか、と推察できるが、この名称も劇団ロワゾに一定の観客が入るようになった頃からずっと存在するものであるため、正しいところは不明瞭だ。
 メルルとは、声──特に歌声を担う役者である。そしてそれが、オーディエンスにまこと認められた実力者に他ならない。
 ルニ・トワゾ歌劇学園に観劇をしに訪れる観客たちの大半は、劇団ロワゾで観劇することを趣味、或いは生き甲斐としている五感の肥えた者たちだ。故に、ルニ・トワゾにてメルルの名で呼ばれ──学生時代からすでにオーディエンスに認められ、彼らからその名を与えられるに値する者は、生徒たちの類まれなる才をもってしても数十年に一人いるかいないか、程度のものである。
 現在劇団ロワゾでメルルとしてその名を轟かせている幾人かの役者たちですら、学生時代からメルル、という呼び名を与えられていたかと問われると、そうではない。彼らは在学中はもちろんのこと、卒業後ロワゾ入りしてからも、むしろロワゾへ入団後に、より自らの歌声を高める努力をし、研鑽を積んだのだ。
 それこそ、鳥が少しずつ巣を作るように。五線譜の音符を一音ごとに辿るように。物語の頁をゆっくりと捲っていくように、少しずつ、少しずつ。

- ナノ -