ナイチンゲール


 劇団ロワゾ及びルニ・トワゾ歌劇学園における「悪役」を意味し、主だっては「主演級悪役」の意として用いられる場合が多い。
 語源としては劇団ロワゾにて悪役が主役の舞台を主演として非常に多く演じた人物、「ナルキソス・ナイチンゲール」が由来とされ、彼はその舞台上で幾人もを不幸に陥れては美しい声で高笑いをしていたそうな。尚、ナルキソス本人は孤児院に多額の寄付を行うなど、当時のロワゾで一番の人格者であったともされている。
 脚本によってはレイヴンやスワンよりも美味しいとされることがあるこのナイチンゲールという役にも、無論男役と女役が存在し、担当する役者もそのつど様々であるが、ナイチンゲールのみを専門としている役者も中には存在する。またそういった場合、その役者はピーコックである確率が高い。
 主演級悪役として用いられがちなナイチンゲールという名称だが、台本の中ではそれぞれにきちんとした呼び名が用意されてもいる。たとえば主演と張るような黒幕や悪の元凶を演じる場合、台本にはその名称を「ナイチンゲール・レイヴン」ないし「ナイチンゲール・スワン」と記され、元凶の取り巻きや端役であるならば、「ナイチンゲール・クロウ」ないし「ナイチンゲール・ダッキー」と記されている。ただ、この呼び名を使用する者はそう多くはない。長すぎるためである。
 大抵の物語にはナイチンゲール、悪の声で美しく鳴く鳥が必要である。物語が必要とする限り、彼らは滅ぼされることなく、幾度も幾度もレイヴンやスワンの前に姿を現し、舞台上をかき乱し、穢し、染め上げ、観客たちを熱狂させては羽を散らしていく。
 レイヴン、スワンとナイチンゲールは表裏一体の存在だ。片方が舞台に上がれば、もう片方も舞台に上がる。我々は、そういう世界で生きている。
 ナイチンゲールもまた、レイヴンやスワンと同じように、気高く、醜く、美しく、憐れに鳴き、飛び、射られることを求められているのだ。観客と、物語から。残酷に、そして愛おしく。

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