スワン


 劇団ロワゾおよびルニ・トワゾ歌劇学園における「主演娘役」を意味する。
 語源は劇団ロワゾにてレイヴン・レグホーンのパートナーとして主演娘役を生涯務めた人物、「スワン・スーダン」が由来とされる。
 レイヴン・レグホーンとスワン・スーダンが互いにどのような感情を抱いていたのかは今となっては分からないが、スワン・スーダンは病のために三十五という若さにして没し、レイヴン・レグホーンが何年も曖昧にし続けた生家での婚約を決めたのはそれから二年後であったとか。
 スワンと名を冠された者は華やかかつ軽やかで、そして何より美しく在らねばならない。その美しさのための足掻きを、泥はねを、彼らは決して自身の真っ白な羽に宿すことは許されない。
 スワンとは美しさであり、美しさとはスワンなのである。彼らはただの一度たりとて醜かったことはなく、そして汚れたこともない。舞台上で唯一の白鳥として、その名を冠す役者たちは光り輝くことを強いられるのだ。物語が、そう言い続ける限り。

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