嘘吐きラプソディ



「綱吉クン、十代目降りるってホント?」

「なにそのデマ」


なに、信じたの?と笑う世界の一角を担うボンゴレボス10代目。


知ってるよ、知ってるんだよ。

嘘吐き、嘘吐き。




「白蘭こそ、なんか兵力集めてるらしいじゃん」

「えぇ?知らないよーそれこそデマだよ」


とぼけたふりでマシュマロを口にふくむ、これまた世界の一角を担うミルフィオーレボス。


知ってるよ、知ってるんだよ。

嘘吐き、嘘吐き。



「間違えた、降りるんじゃなくて降ろされるんでしょ?」

「まっさかー俺以外に誰ができんの」



部屋にはふたりきり。ボス同士の会合中。
扉も窓も閉め切って、ないしょのお話。



「リボーン以外のアルコバレーノもミルフィオーレにいるらしいじゃん」

「なにそれ、僕人脈ありすぎじゃない?」



ボス同士の会合だってのに小さい2人用のテーブルにお菓子と紅茶。
足を組んだり片足を椅子に上げたりと行儀はあまりよろしくない。



「守護者にもそっぽ向かれてるって聞いたけど」

「みーんな俺が嫌いなんだって」

「それほんと?」

「嘘、嘘」



みんな仲良しだよ、と笑って紅茶に砂糖をひとつ。
お前は3つだったよね?とぽとん、僕の紅茶に甘さが広がる。



「ボンゴレの同盟マフィアがどんどんそっちに流れていってるんだけど」

「ちょっとおっきいことしでかそうと思って」

「何すんの」

「嘘だよ、なーんにもしないって」



平和が一番だよねーと笑ってスプーンをくるくるカップの中で回す。
ミルク忘れてるよ?ととろとろ、俺の紅茶の色に白濁色が混じる。



「で?幽閉はいつ頃になるの?」

「うーん、早くて来週頭かな」

「なんでそんな落ち着いちゃってるの」

「だって嘘だし」



お前いい紅茶使ってんね、と美味しそうにカップに口づける。
今度この店連れてけよ、と琥珀色を細めてクッキーに手を延ばした。



「なんでボンゴレ潰そうとしてんの?」

「だって君のこと助けたいんだもん」

「……本気?」

「嘘、だってそしたら僕が世界のてっぺんだし」



これ意外と安いんだよ、と嬉しそうにカップをソーサーへそっと置く。
デートみたいじゃない?とマシュマロを俺の口に放り投げた。



「お前ってほんと嘘吐き」

「綱吉クンだって嘘吐きじゃん」



ふふ、と笑い合うけれど。

じっと、絡む視線はお互いの真意を計りかねている。




「はぁ〜…白蘭とのお茶が今人生の中で唯一の安らぎだよ」

「また嘘?」

「これはほんと」




ほんとかー嬉しいな、とにやにやするミルフィオーレボスは。
照れからか顔がほんのり赤くて。

ああもう。



「僕は安らぎって感じじゃないけどね」

「ぇ、嘘?」

「ほんとー……安らぎっていうか幸せ?」



クサいよ!と困った顔をするボンゴレボスは。
照れて顔が真っ赤になって。

ああもう。




「でも、もし幽閉されちゃったらもうお茶はできないなぁ」

「無理矢理出てきちゃいなよ」

「お前ボンゴレのセキュリティ馬鹿にしすぎ」



「大丈夫、無理矢理出してあげる」


「………ッ、は、嘘、つくなよ、大体『幽閉』自体無い話だし」




急に真面目な、顔をしたものだから。

声が、震えた。
大丈夫?バレてない?

さっきから、いいや、幽閉の話を聞いてから手が震えて仕方ないんだ。
気付かないで。
お願いだから、気付くなよ。


怖いんだ。


幽閉?

幽閉って、なに?

俺、そんな悪いことした?


ただ、皆を纏めあげようとしてただけなのに。
でしゃばるなって。
駄目ツナのくせにって。


幽閉、だなんて。
もう、会えないのかもしれない。


いっつも軽口で、冗談言い合って。
何が嘘かも本当かも分からないふたりだけれども。

でも、最後の時に。
会いたいって思ったのはお前しかいなかったんだよ。

もしかしたら、次に会ったときは。
薬漬けかなんかで彼奴らの人形かもしれないし。

『幽閉』に対して超直感は警告を鳴らすばかり。



だから、最後かもしれないこのときに。

軽口でもいいから、冗談で受け取ってくれてもいいから。




「会えるの、今日で最後かもしれない」

「嘘吐き」

「ごめん、これは本当になるかもしれない」

「嘘吐き」

「…白蘭」

「……嘘吐き」





嘘吐き、嘘吐き。

そんな、悲しい嘘をつかなくてもいいじゃない。

知ってるよ、君の手が震えてることなんて。
そんなの、今更隠さなくたっていいじゃない。


幽閉?
巫山戯ないで欲しい。

皆のことを思って動いた彼を邪魔だと払いのけるなんて。
どれだけ傲慢なの。


ねぇ、綱吉クン。
僕らって軽口言える仲でしょ、冗談だって言えるでしょ。
なんで軽く「助けて」って言わないの。

言ってくれたら理由が出来て動きやすいのに。

分かってるよ、分かってる。

君は優しいから。
僕の手が汚れてしまうのが嫌なんでしょ。

でも、そんなの裏世界にいれば当たり前。
覚悟はとうの昔にしたし、もう汚れきってるよ。


ねぇ、諦めないで。

僕と一緒にいる未来を、そんなに簡単に諦めないでよ。









「なんで、そんな嘘つくの」


「だって」



だって。






「お前のこと好きなんだ」




精一杯の、勇気を振り絞って。
あくまで、軽口のように。

でも、目を見開く彼の驚いた顔を見てしまったら。


ああ、駄目だ。




「……嘘だけどね」



勇気がしぼんでやっぱり冗談にしてしまった。
本当に、本当に伝えたい気持ちを嘘に塗りたくって。

でも、でも、いつも冗談を言い合う俺らなら。
君はきっと分かってくれるはず。



最後の一言が、最後の嘘だって。






「……やっぱり言って。冗談抜きで」

「…ぇ?」


「僕に『助けて』って言って。」


そしたら『ボンゴレボスに助けを求められた』として。
すぐに戦争を仕掛けられるから。
その一言が、世界に発する免罪符になるから。




「なんで、なんで白蘭がそこまでするんだよ」


俺の、ために。
世界を、力を、金を動かして。


俺、なんかのために!




「だって」




だって?











「君のことが好きなんだ」











震える手をぎゅっと握って。










「これは、ほんと」








そっと、頬を流れる雫を掬って。
優しく、優しく目尻に口づけた。




「やぁっと聞こえた」

「……俺、何も言ってないけど」



「聞こえたよ、はっきり」





僕と一緒にいたいっていう声。

綺麗に流れる雫と共に。






なみだはうそをつけないの
(助けて、と叫んだ瞳のしずく)






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