弔いの花、みっつ



ピンポーン


「はーい、ツッくん、びゃっくんお友達がきたわよー」



土曜日、学校が終わって自分達の部屋で自由気ままに過ごしていたとき。

(部屋は勿論一緒だけど何か?)


誰かが、訪問してきた。

超直感は働かないから、危険ではないにしろ、検討がつかない。

小学校の同級生などにはいい意味でも悪い意味でも一線を引いている。


あくまでイイコに。
人を苛めるはずはないってくらい不自然な優しさを撒き散らして。

けれど仲良くする気はないよ、の姿勢を貫いて。

(大体精神年齢が違いすぎて辛いものがある)


それが、俺と白蘭の学校生活と未来のためのスタンス。

今こそ、長年の地盤作りに励むとき。


だから、家を訪ねてくる同級生なんて皆無のはず。

そう思って白蘭に視線を投げかければ、にっこり、笑われた。

「来たよ」

「ぇ?」


もう忘れちゃった?と俺の手を引いて玄関へ向かう。

ぇ、約束なんてしてたっけ?

混乱する頭を余所に、足は勝手に玄関に続く階段を降りていて。

少しずつ顔が見える位置、に、大人?



「ぇえ!!桔梗に、ザクロ、デイジー!!?」


前の生と変わらぬ桔梗と、デイジー、そして少年から青年への過渡期に見えるザクロ。


「この生では初めまして、ですね綱吉様」


桔梗の言葉を皮きりに、深々と三人がお辞儀をした。


「この生って…」

世界が塗り替えられていることに気付いてる?


「お久しぶりです、白蘭様」

「よっ」


「変わらず元気みたいだね♪」


視界の隅でミルフィオーレの挨拶が和やかに行われてる。

ちっちゃい子どもに挨拶する大人達ってのもなんか笑える。


…じゃなくて!!



「早く上がって!あの女に見られたら変に思われる!!」

なんでふつーにそんな格好なの!!



ばたばたと三人を二階の部屋に押し込んで。

後からゆったりと上がってきた白蘭がドアを静かに閉めた。


「ぶっ…くくく」


肩を震わせて笑う白蘭に連られたのか、真六弔花の三人も柔らかく笑った。


「何?どうしたの」


焦ったせいでクタクタになった俺に、だって、と涙目の彼が振り向いた。


「つな必死すぎ」

「…必死にもなるよ、俺ら小学生にこんな大人が会いに来たらおかしいし」


ほぉ、と感嘆の息が漏れた先を見やれば、真六弔花のキラキラとした目がむっつ。


「?」

「ちょっとザクロ、変な目でつなを見ないでくれる?怖がってるから」

「いやいやいや!!そんな気はねぇって!!」


きもーい、とデイジーが呟けば顔を青ざめて、何やら必死に弁解している。

ぇ、何?2人ってそーゆーコト?うん、知りたくなかった。



「綱吉様の素晴らしい超直感はご健在みたいですね、感動致しました」

またまた桔梗が深々とお辞儀をする。堅い!堅いし重いよ!!

頭上げて…って言ってもなかなか上げてくれない。


「桔梗、つなが困ってるからもっとフランクにいきなよ」

それとそこの2人うるさい、とザクロとデイジーを窘める白蘭は確かにボスの貫禄。

ぅわ、格好いい。

(内容はこの際気にしない!)



「って、超直感?」

「つな、この三人は幻術で端から見たら小学生だよ」


でも、この三人って…?


「霧属性はおりませんので外からトリカブトに頑張ってもらってます」

「トリカブトは?」

「仮面でつなが怖がるといけないから外で待機命令」


うぅ、確かに窓から熱いというか寂しそうな視線をひしひしと感じるような気が……見ないでおこう、うん。


「…超直感は幻術であるかないかを見破れる程度だったんだけどな」


少しずつ進化してる?


「すごいじゃない、これで霧属性は完全攻略したね♪」

だから君の能力も充分チートだよって言ったのに!


「前の生では上手く扱えてなかったけど今生無くなるまで使い切ってあげよっか」


以前逃げることの出来なかった煩わしい様々な事も回避できるかもしれない。









「……綱吉様、白蘭様からお話は伺いました」


和やかな雰囲気から一変、張りつめた空気が場を占めた。


「私とデイジー以外の真六弔花は以前の記憶を引き継いでおりません」


桔梗はあの戦争で命を落としている。

ただ、死ぬことの出来ないデイジーは。

世界が塗り替えられていく様をひとり見てきたらしい。



「あなた様だったのですね」


「ぇ?」


「白蘭様をお救いくださったのは」


――――救った?

違う!違うよ!!



「ごめんな、俺のせいでお前らのボスを……」


謝っても謝りきれない。
一生を誓った彼を奪ってしまったこの罪は。

今もまだ君達の奥底で傷をつけているでしょう!




「いいえ、綱吉様は知らないのです」


私達の主がどんなに世を嘆いていたか。

張り付いた笑顔で表情を隠して、他者と一線を引いて。
汚い世界にやりきれない思いを抱き、紫色の瞳が濁りつつあった。


それがあなたに出逢って、どんなに変化をもたらしたか!

表情が変わり、考え方も、立ち振る舞いも言わずもがな。

人ひとりを想うだけでこんなにも人は変われるのかと感動したのを今でも覚えている。



「とても、感謝しているのです」
私達の力では無理だったから。
その理由が、会ってみれば分かってしまった。


大空は、大空でしか救えない。


「……そして、遺体をボンゴレに渡すのを留めて頂きました」

ぎらり、とみっつの花ばなの目が剣呑に光った。

許しはしない、と憎しみの色が燃える。

あぁ、やはり彼らは俺とは違ってボスと守護者は絆で結ばれていたんだ。




「つな、そんな顔しないで」


むにり。

ほっぺたを少し引っ張られて、は、と気付く。

「俺、変な顔してた?」

「ちょこっとね」


張り付めた空気が弛む。
やっぱり彼は空気を造るのが圧倒的に天才だ。



「つな、真六弔花がきたのはこの話だけの為じゃないんだよ」
ちらり、と白蘭が桔梗を見やって話を促す。



「……綱吉様、あなた様にはミルフィオーレの礎になって戴きたいのです」


「………いしず、え?」


「今回の生ではジッリョネロとは合併しないんだ」

自分達だけの力で大きくさせる。


「前の生で僕率いるホワイトスペルとユニちゃんが率いるブラックスペルは思想の違いから対立してね、最後は内部がめちゃくちゃだったんだ」


僕の本当の願い――『君を守ること』を伝えてないのも悪いんだけどさ。


「つまり、俺がブラックスペルを率いるの?」

「そ、僕と君の二大柱」


唖然とした。

まさか、ねぇ。白蘭がそんなことを考えてるなんてつゆ知らず。


「白蘭様だけのお考えではありません、私共真六弔花もそう願っているのです」

どうか、どうか。

私達のホームになって戴きたい。



「ホーム?」


「私共ミルフィオーレに所属する者は帰る場所が無いばかりの者ばかり」

「僕を筆頭にね」


生が変わろうと、世界が代わっても、部下の顔ぶれは変わらなかった。

ミルフィオーレに集う者達は皆、家族を失くしてしまったもの、迫害されたもの、理由はそれぞれだが、居場所を求めた彼らを受け入れた。


「僕達の家族になって、受け入れてってことだよ」


良いことがあったら笑いあって、悲しいことかあったら慰めて。

僕達は組織と言う名の家族の親になるんだよ。



「俺で、いいの」


「お会いしましたが一目で分かりました。あなた様は白蘭様と同じく頂に立たれる方」


「大空――つなにしか出来ないことだよ」





――だから、僕達と家族になって。














「では、お邪魔しました」


「またな!」


弔いの花がみっつ、小さくなるまで見送って。

皆、最後に朗らかに笑いあえたのは良かった。



「びゃく、ありがとう」

「何が?」


ふふ、と笑いあって手を繋ぎなおした。



俺に、家族をくれるんだね。

嬉しい、嬉しいよ。


そしてミルフィオーレのNo.2の位置にして俺が人を使いやすくしてくれたんだね。


ぜんぶ、ぜんぶ俺のため。



「ぁ、心配しなくても悪いことはしないからね」

つながいるんだから。

「治安のため、市民のために働くよ!」


あまりにも似合わない台詞に吹き出してしまったのは仕方ない!



少しずつ、少しずつ歯車が回りだした。

きっと、待ち受ける未来は忙しないものだろうけれど、隣で微笑んでくれる白色の彼の手の温もりに。


安堵したのは俺だけの秘密。




(…ねぇ、びゃく、一個聞いていい?)

(………桔梗の年齢は僕も知らないよ)




((……なんで姿形変わってないのあの人……))




きれいにほがらかにさいて
(幸せをあげるから!)






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