金色の独占欲



あぁ、なんて綺麗なんだろう。


はぁ、と感嘆の息を漏らせば、寒い?と勘違いされてしまった。

温めたココアを受け取れば、彼は自分の分のココアを持って隣に座った。


「おいしいね」


言葉少ない彼の声は、透き通って俺の心に響く。


雪の中にいるせいからか、白い肌はまるで陶器みたいに、艶やかな黒髪と相俟ってさらに美しく際立つ。

長い睫の下に隠れるのは彼のトレードマークでもある赤い瞳が宝石のように輝いて。


こんな綺麗な人っているんだ、と初めて思ったのは出逢った瞬間。




シロガネ山には亡霊が出る、と。

その亡霊はバトルが強く。勝利した、と嘯くことさえ許されない強さだと。

噂が囁かれ始めたのはいつの頃だったか。


カントー、ジョウトのバッジを携えて、四天王さえも凌駕して。

誰も自分より強い人がいなくなると暇で暇で仕方なかった。

そんな時に耳にした噂に心惹かれて目指した神の山。




ありえなかった。
まさか、ピカチュウ一匹に倒されるなんて。


呆然とする俺に、まだまだだね、と追い打ちをかけて。


「だけど」

「……?」


「仲間を信じてるのはいいね」


優しい、瞳に。

惹き込まれた俺はそれからというもの毎日のようにレッドさんに勝負を仕掛けて。
最近になってバトルが終わった後こうして話をする仲までになった。
うかうかしてらんないなぁ、と無表情で言われるのは地味に凹むけれど。



「ぴぃか」

「どうしたの、ピカチュウ」

とことことやってきてレッドさんの顔にすり寄るピカチュウ。
ああ、和む。可愛いタッグ。

これがバトルになると黄色い悪魔になるんだから分からないもの。
未だにこの悪魔に勝ったためしがない。





「なんで勝てないんだろ…」

心の声がぽつりと出てしまった。
なかなか小さい声だったのに洞窟内は響いたのか赤色の彼に届いてしまった。


「……ゴールドはグリーンと闘ったこと、ある?」

出た。レッドさんのライバルで幼なじみ、トキワジムリーダーのグリーンさん。

「そりゃあありますよ。バッジだってもらいましたし」

ほら、とバッジを見せてもゆるゆると首を左右に振られてしまった。

「違うよ、ジムじゃなくて手持ちで」

「……手持ち?まさか使い分けてんスかあの人」

こくん、と頷くレッドさんに合わせて腕の中のピカチュウも頷いた。可愛い。



「今度バトルしてみなよ、すごく、強いから」

僕でもギリギリだよ、と微笑むレッドさんに。
なんだかなぁ、と気分が盛り下がってしまう。

そんな、目をキラキラさせなくったっていーじゃん。
俺といるのになぁ。
グリーンさんの話になると、いつもの二割増可愛くなるだもん。
困るっていうか凹む。


「レッドさんは最近グリーンさんとバトルしたんスか?」

「……会ってないし、グリーンは僕の居場所知らないでしょ」



言っちゃ、駄目だよ。

最初に言われた言葉。
僕の名前は出しちゃ駄目だよ。特にカントー地方では。


「もしかして、言った?」


じとり、睨まれる。

「いやいやいや言ってないっすよ!!」

そう、と信じてくれたようだ。
美人が睨んだらマジでおっかない。
ていうかなんでピカチュウまで怒ってんだよ。




ていうか言う訳がない。

言う訳、ないに決まってる。




例えレッドさんが誰を想っているか分かりきっていたって、
例えトキワジムが度々留守になったって、
例えそこのリーダーが俺に幼なじみの居場所を聞いてきたって。




言う、訳がない。




「レッドさん、これ飲んだらバトルしましょ」




とりあえず、山を下りたらトキワジムに挑戦か。
一匹残らず戦闘不能にしてやる。




赤色に縋る想いも一緒に粉々に。







こんじきはふてきにわらう
(彼を知っているのは自分だけだ)






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