狂気を希求する
キィキィ。
金具が軋む音が会話の合間に響く。
「ブランコってこんな楽しかったんだねー」
にこにこ、凄い勢いでブランコを漕ぐ白蘭はご機嫌だ。
「そんなに楽しい?」
楽しいけどね、そんなに嬉しがるかな?
「前の生では遊んだ記憶、塵にも等しいよ」
だから、嬉しい!
そっか、病院に閉じ込められたんだったっけ。
だけど休み時間の度にブランコに一目散に走るのはどうかと思う。
中身はいい年頃だよ、俺ら。
ここは並盛小学校のグラウンド。そう、俺達ふたりは並盛小にめでたく入学して学校生活を満喫しているのだ。
(特に白蘭がね)
ていうか同じ学年なの?前の生ではお前年上だったよね?と聞けば操作しちゃった♪と可愛くてへぺろされた。
だって、同じクラスの方が楽しいし、名実ともにずっと一緒だよ。
朝から晩まで。
寝ても覚めてもずっと君がとなり!
そんなずっと一緒にいて飽きてもしらないからな、とからかえば。
僕は君に飽きることは有り得ないし、君だって僕に飽きたりしない、でしょ。
分かってるんだよ、と視線を投げかれられれば。
こちらの照れからのからかいもバレバレだったことに気付いて閉口してしまった。
「ていうかクラスまで操作したんだ…」
「何か言った?」
なんでもないよ、と言えばそう?とまたブランコに夢中だ。
クラスまで一緒なんてなんて奇跡!とはしゃいだのが馬鹿みたいじゃないか。
「にしたってどうやって操作したの」
「真六弔花ー」
とか他構成員。使ったの。
「ぇ、もうみんな揃ってんの?」
「つなに会いに行く前にね、それなりに下準備しとかないとね」
まだブルーベルは生まれてないけどね。
「小学校の校長とか先生買収するぐらいの金は集まったよ」
少しずつ、少しずつ。
ミルフィオーレを密やかに創っている。
「だけど、まだ全然足りない」
君を、彼奴等から守るには。
「ぇ、またこの生でも裏世界に足を突っ込むの」
静かに、暮らす道だって選択肢の中にあるんだよ。
「なに、君はその血が流れている限り彼奴等からは逃げられないんでしょ?」
「俺はね。だけどびゃくは関わらなければいいことだ」
「なにそれ、守らせてくれないの」
そんなに、頼りない?
キィ、と音をたててブランコの揺れが止まる。
「…巻き込んで、いいの」
「巻き込んでよ」
「また、傷つくよ」
「もっと、強くなるよ」
「もう俺びゃくのこと離せなくなるよ」
「僕がつなを離さないんだから大丈夫」
だから、ね。
一緒に立ち向かおう。
今の生では傍にいてくれるだけで十分だと言うのに。
一緒に俺のしがらみを断ち切ってくれるなんて。
どうしよう、泣きそうだ。
「……ありがとう、びゃく」
僕が好きで動いてるんだからお礼なんていいんだよ、と白蘭はにこり、笑った。
「にしても」
ブランコから降りて、ふたり教室に戻る途中で呟けば。
俺の小さい声を拾って白蘭が振り向いた。
「どうしたの」
「いや、おかしいな、と思って」
主語がない俺の言葉に首をこてん、と傾げた。
ぁ、可愛い。
「山本と、京子ちゃんのお兄さんと、雲雀さんがいない」
確か、同じ小学校だった、はず。
山本は同じクラスにはならなかったし、他ふたりは学年が違うから小学校では関わりなかったんだけど。
「…はずした、よ」
くすくす、口角をあげて悪人のような顔をして笑う。
「はずしたってなにを?」
意味が分からなくて素直に問えば、首傾げちゃって可愛いーとからかわれた。
「校区を、はずしたんだ。その三人の家」
だから、隣の学校にでも行ってるんじゃない?
驚いた。
これで小学校は静かに暮らせる。ゆっくりと、綿密に計画が練れるというもの。
少々大胆に動いてもボンゴレに関わる者がいないのだから不信感も記憶さえも与えやしない!
「変わってくるね」
「そりゃそうだよ。君の生に有り得なかった“白蘭”という歯車が組み込まれるんだからね。」
少しずつ、少しずつ狂っていくよ。
「もっと、もっと狂ってしまえばいい」
彼奴等が息が出来ない程!
「生を繰り返してる僕らも狂ってるし、繰り返させた世界も狂ってるよね」
そしたら僕らの道筋が狂うのは必然だ!
「楽しみだね」
狂った未来が僕らに優しいものであればいいけれど。
「僕ら次第だね。明日にでも六弔花を集合させて話合おうか」
心待ちしている未来のお話を!
くるったせかいにひとつ
(明るい未来を託そうか)
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