雪に沈む


さびしい。


さびしい。



ここはとても寒い。

寒くて、堪らない。



でも、きっとここなら。

君への想いもいつか凍ってしまうだろう。


そう、願えば。

ここから一歩も動けなくなってしまった。












「好きだ」


がん、と頭を打たれたかと思うほどの衝撃だった。


幼い頃からずっと一緒にいて、それこそポケモンよりもずっと一緒にいて。

その日常が崩れたのは、あの旅立ちの日。お互いそれぞれにイーブイとピカチュウを相棒に連れて。

幼なじみで、ライバルで、親友で。

夢を追う道程で、君と時々出会って、力を高めあって。

先に一歩いつも進んでいた彼をいつもいつも追いかけて。

君がたまに僕を待っててくれたことも気付いているよ!
(くやしいから言わないけれど)

ジムリーダー、四天王を制して、やっと追いついたチャンピオンの君を倒して。

旅は終わった。



旅で起こったことや、ポケモンたちのこと、そしてロケット団のこと。

たくさんたくさん話したいことは山積みで、足早にマサラタウンに帰った、ときだった。


見覚えのある後ろ姿がオーキド博士の研究所の近くにあったから、はやる胸の鼓動を抑えて、声をかけようと、


「グリー、「好きだ」



ぇ、なに?

足を、止めて。というより動かなくて。


ずっと、ずっと一緒にいた彼が恋慕の情を吐露するなんて、初めてで。

そんな、切羽詰まった声、なんて。

いくら疎い僕にでも伝わってしまう、好きで好きで堪らない気持ちが詰まったその言葉。


誰が、好きなの。

いつのまに、誰に心奪われたの。



相手を見たくなくて、僕はその場から逃げ出した。

視界の隅に、女の子の影がかすめたけれど、もう一度振り返る勇気なんて持ち合わせてなかった。



誰もいない家にひとりきり、電気もつけないまま部屋にうずくまる。

僕の異変を察知してか、六個のモンスターボールがカタカタと揺れていた。


「ごめん、大丈夫、だから…」


落ち着いて、とボールに触れた、とき。


ぼろり、



「、なみ、だ…」


とめどなく溢れる涙に驚きつつ、涙の止め方を模索する、けれど。



「グリーン、だ…」


小さい頃、泣いてもすぐ僕の気持ちを理解して、涙を簡単に止めてくれたのはグリーンだった。


でも、でも彼はもう。

きっと誰かのものだ。



そう思うと、涙はさらに溢れて、気付くこと。




あぁ、僕、グリーンのこと。




でももう今更、今更だ!

気付いたとしても、誰かのものじゃなくても。


僕は男で、彼も男だ。

せっかく、幼なじみで、ライバルで、親友という欠けがえのない場所にいるのに。


この、気持ちがばれてしまったら。


気持ち悪いと。
おぞましいと。

あの綺麗な緑色の瞳を向けてくれなくなるかもしれない。



それだけは、それだけは。





だから、

忘れてしまおう、
消してしまおう。

こんな、汚い気持ち。



六個のボールを携えて。
足を向けるはシロガネやま。

人が滅多に踏み込まないカントーとジョウトを繋ぐ神の山。

一年中、雪の降り積もるここに、僕は閉じこもる。


君への想いを消すために。



君に会わなければ、きっと忘れることができるだろうと。



沈めて、奥深くまで。
取り出せないよう、深く、深く。

雪に埋もれたこの想いは、いつか溶けてしまうことを願って。


あぁ、だけどだけど。


「会いたいな……」


さみしいよ、さみしい。

ひとりは、さみしい。


誰に届くこともない呟きは、雪の音にかき消された。



「ぴかちゅ、」



すり寄ってきたピカチュウを抱き上げて。


「ごめん、ひとりじゃなかったね」


ついてきてもらって、ごめんね。こんな山奥に。


そう謝れば、腕の中のピカチュウ、洞窟から僕の様子を伺いみる他の五匹が大丈夫だよ、と笑った。


こうして僕は優しいポケモン達に甘えながらも、彼の面影を弄ぶ。

いつまでも消えてはくれないこの想いと共に。



はやくきえてしまって
(綺麗な心でまた君に会いたいんだよ)






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -