いずれ来る日


「この日を待ってたんだ」


そう呟いて、琥珀色が金色に変わった瞬間。
彼は高らかに、よく通る声で宣った。




「我々はミルフィオーレ創立をここに宣言する」




その左手にはかつて未来で闘った白髪の右手が繋がれている。

かたく、かたく。



「これで立証人は全世界のマフィアになるね」



きらきら、金色の瞳と紫色の瞳が力強く輝く。

みな、予感した。輝きに、見とれて目が離せない。否、離してはいけない。

今、この刹那。

世界の頂に立つであろう2人が誕生したのだから!


「ミルフィオーレのボスは僕、白蘭がするよ」

「俺、沢田綱吉はその補佐をしよう」

「我等真六弔花はその下に付従いましょう」


何時の間にか現れた真六弔花が未来の姿より若返って、未来と同じく白蘭の下につくことを宣言した。

ただ、ひとつ違うのは。



「沢田ッ!!てめぇふざけんじゃねぇよ!!」

「そうなのな!何がミルフィオーレだ!!」

「お前はボンゴレの指揮下にあるんだぞ!」


大体、十代目就任式に他マフィア創立なんて失礼にも程がある!!



―――――そう、ここは某伊国、ボンゴレの歴代ボスが就任式を上げてきた神聖な場所。

けれど、十代目候補だった沢田綱吉を十代目に任命する為の式典では、なく。

ごく最近見つかった新しい十代目候補の少年を王に掲げる式典であり、さらに彼に不敬を働いた元十代目候補、沢田綱吉に謝罪させ、その一生を捧げて奉仕させようとした場で、あったはず。


「綱吉君、そんなに僕のこと嫌いなの?」

弱々しく、先程十代目に就任した少年が嘆いた。まるで女の子のような彼は、見ているだけで庇護欲をそそられる容姿をしている。


「いいえ、あなたには感謝していますよ、ボンゴレ十代目」


彼は、一体誰だろう?

ボンゴレ十代目候補の権利を剥奪され、未来永劫ボンゴレの名を語ることは許されない、と判を捺された彼は、否、捺される直前までは少年と同じように、か弱く、庇護欲を掻き立てられる風貌をしていたというのに。

「かん、しゃ?」

ひくり、現十代目の口元がひきつった。


「俺の代わりにその汚い椅子に座ってくれて!」

あはは、と無邪気に笑う彼につられて隣にいた白蘭も笑う。

「そうだね、感謝しなきゃね、そこの馬鹿どもにも」

―――つなクンを手放してくれてありがとう!


「汚い椅子ってどういうことだよ!!」

「大体お前まだ謝ってもないのな!」

「男なら罪を認めるべきだ!」



罪って?なんのこと?

にこり、元十代目が笑った。
笑顔は可愛らしいのに、恐ろしい。目が、笑っていない。

他マフィアは身動きひとつ出来なかった。しようとは、しなかった。その判断が長年裏世界で生き延びてきた証拠。

彼に怒りの矛先を向けられては終わり!


「お前がこの椅子が欲しくて十代目を傷つけたんじゃねぇか!」
忘れたとは言わせない!!


「はぁ?」

激しい口論に口を出してきたのは今し方創立したミルフィオーレのボス、白蘭。


「今さっき汚い椅子って言ってたのもう忘れちゃった?」

ほんとおめでたい頭だね!

「大体つなクンはボンゴレ十代目を苛めちゃいないって何度君たちに伝えたか」

指折り指折り。
なんて無駄だったんだろうね!

「そんなのアイツが嘘をついてるに決まってるのな!」


「なんでつなクンが嘘をつく必要があるのってかなんで十代目を苛める必要があるの?」


「そんなの十代目に就きたかったからだろう!」


そうすれば、財力も、政治も、女も、思いのままなのだから!



はぁ。

一時口を噤んでいた綱吉が、軽くため息を吐いた。


「ねぇ、お前らさ。忘れてない?」

――――俺、最初っからマフィアになること嫌がってたよね?

「……………ぁ?」


例えそれが世界を牛耳る組織の頂点になる道であろうとも、俺はずっと拒絶してたよね?

それさえも、伝わってなかったの?



確かに、確かに。
思い返せばずっと嫌々ながらも“仲間のため”と彼は拳を振るっていた。けれど、一言も“十代目になりたい”などと聞いたことがなかった。

皆、思い当たる節があるのか誰も言葉を発せず、辺りは静寂が包みこんだ。

その時。





―――――カラン…

何かが、床に落ちる音。
金属音。


皆の視線が音の方向に集まる。
その先には。



「…………雲雀?」

何を、してるんだ?
今、床に落としたものは、落としたものは!



「綱吉、もういいんでしょ」


ありがとうございます、と雲雀の延ばされた手を引いて。

雲雀をミルフィオーレ側に引き込んだ。


「待て!!何してやがる!!」

「てめぇ勝手に守護者を止められると思ってんのか!!」


ふわぁ、と欠伸をひとつ。
白蘭とは反対側の綱吉の横に陣取った雲雀はとてもとても気怠そうに。

「いつ僕がそいつの守護者になったのさ」

綱吉の頼みで今日まで黙っててやったけれど。

僕は彼しか認めてないよ。



床に転がる雲の指輪が、悲しそうに輝きを失っていくようだった。主を、失くしたのだから。

元十代目に続き、守護者最強の男までもがボンゴレから抜けて敵側に行くという前代未聞の事態に、ボンゴレ側は呆気に取られていた。

何故?何故こうなった?





――――――カ、ラン…



再び鳴った金属音に、皆一斉に振り向いた。

また、か!?



「雲雀くん、狡いですよ。抜けがけなんて」

くふ、と笑う男はそんな、まさか。


「六道、はやくしなよ」


「骸、ほらおいで」

綱吉が手を延ばすと、颯爽と歩き、その手をとって口付けを落とした。


ありがとな、と六道に感謝の意を述べると、君のためならかまいませんよ、と笑った。


「ろ、くどう…」

「なん、でお前まで…!」


最高の幻術使いと名高い六道骸までボンゴレを抜けるなんて!
たった三人、されど三人。
しかも行き着く先は白い悪魔の下。


「いつまでもその少年に騙されている君らにはほとほと呆れました」

同じ組織っていうだけで虫酸が走ります、とにこやかに笑った。


「だます……?」

意味が分からない、と頭を捻るボンゴレの守護者達に、六道は冷ややかな目を向けた。


「そこのボンゴレの血縁者でも何でもない少年が椅子を欲しがって綱吉くんを貶めたことを」

僕らは気付いてるんですよ?



ミルフィオーレ側の殺気が自分に向けられているのが分かり、ボンゴレ現十代目は「ヒィッ…!」と小さく叫んだ。



「まぁ、そんなことはどうだっていいんだ」

殺気を収めて、と綱吉が皆に指示する。


「過去の何が真実で、何が裏切りかなんて」


今更、何の意味も持たない。

ボンゴレの椅子も、彼奴等の謝罪も、そんなものは求めてはいない。


ただ、ただ欲しいのは。

そう、大事なことは。


「この紙きれ一枚、裏世界の要人が揃っている場でもらうことだよ」


綱吉がその手に掲げるのは。


――――ボンゴレの在籍抹消証明書!!


「これでもうお前らは俺に手出しは出来ないだろうし、二度と俺を十代目に、なんて血迷ったことは言えないだろ?」

こんな大勢の前で破れる約束なんて無いよね?



「我慢したよね、僕ら」

「帰ったら飽きるまで構ってもらいますからね」

「六弔花、帰ってパーティーの準備しといて♪」



顔面蒼白なボンゴレ側に比べてミルフィオーレ側は意気揚々と帰る準備をしている。

あまりの展開に呆けていた他マフィアだったが、我に帰るとすぐさまミルフィオーレに足を向けた。


「「「ミルフィオーレボス、同盟を申し込みたい!!」」」


白蘭と綱吉が目を合わせる。こくり、と綱吉が頷いたのを確認して、白蘭は同盟を次々に申し込むマフィア達に告げた。


「うちはボンゴレと同盟を結んでるとことは組まないよ」


その言葉を聞いた彼らは反射的にボンゴレに向き直り、同盟破棄を申し込んでいた。


「流石だね、先を読み取る力がある」

「そうじゃないと組織を束ねたり出来ませんよ」


ふんふんと雲雀と六道が賢い裏世界の要人達に感嘆の意を述べているのに白蘭と綱吉は苦笑しつつ。


同盟を破棄され続け、慌てる守護者達と現十代目を満足げに見渡して、4人は場に背を向けた。







「いずれは跡形もなく葬ってやるさ」


少しずつ、少しずつ足場が揺らぐのを怯えてればいい!

最後の足場が崩れるとき、その絶望にまみれた表情を、世界の頂から俺を信じてくれたコイツらと笑ってあげる!



おくるのはぜつぼうのおと
(カウントダウンでも数えようか?)






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -