暗闇に紡ぐは
世界が、暗闇に浸されてしまった。
まっくら、どこまでも。
目は使い物にならないから、頼りは聴覚とこの両手の感覚のみ。
こつ、こつ、こつ、
誰かが近づいてきて、俺の前で止まった。誰かって言っても1人しか当てはまる人はいないのだけれど。
「つなクン、調子どお?」
包帯替えよっか、と慣れた手つきで優しく包帯を外していく。
「変わりないよ」
そう、と返事を返してくれた彼の手が止まった。
見られ、てる?
遠慮ない視線が突き刺さる空気が辛い。
「…………白蘭?」
そっと、手が俺の顔に触れた。冷たい。優しい心を持った人は手先が冷たいというのは本当だったんだ、と納得する。
「なんで、もっと早く」
もっと、もっと、もっと!
「気づかなかったんだろ…」
声がとても小さくて、近くにいる俺でやっと聞き取れた。
す、と目を開ける。
やっぱり世界は真っ暗だ。
光の差し込まない、琥珀色。
「ごめんね」
彼の声が弱々しく、俺の鼓膜に届いた。
「白蘭は悪くない」
わるくないよ、だって、だって。
平凡な毎日から、なりたくもないマフィアの道へ無理矢理に歩かされていた、日々。
そんな道でも仲間ができて、絆が生まれて。でもそんなのは無理矢理な上での繋がりで。
敵対マフィアが送り込んできた『普通の女の子』に道を簡単に崩されてしまった。
敵対マフィアはどうやら真っ向から勝負を仕掛けても勝てないと踏んだらしく、俺達を仲違えさせることにしたようだった。
結果は万々歳。
守護者は一人残らず彼女の味方。なんと家族やリボーンにまで手を回すとは恐れいった。
『彼女を傷つける愚か者』を彼らは制裁した。暴力をもって、言葉をつかって、世話を放棄して。
そんな日々に終止符を打ったのは、誰の一撃だったか。
あまりに強く頭を打たれた俺はそのまま意識を飛ばし、病院へ。
そして、この有り様だ。
光を、失ってしまった。
焦ったのはボンゴレだった。どうやらリボーン達は報告もせず俺を制裁していたらしく、九代目始めボンゴレ上層部は怒り心頭だった。
少し調べれば敵対マフィアの刺客だと判ったのに!と。
目の見えないボスは使えない。つまりボンゴレは後継者を失ってしまったことになった。
そうなると彼らが俺の血を欲しがることは分かりきっていた。けれど光を失った俺には身動きができない。
そんな時に現れたのが白蘭だった。
「もっと、早く君を助けていれば、その目は見えていたままだったのに」
手が震えてる。
泣いて、るの?
「白蘭、白蘭は悪くない」
だって、だって全部気付いていたんだ。
刺客が来ること。
皆俺を裏切ること。
光を失うこと。
でもね、逃げなかった。
光を引換に、自由を掴めると気付いてしまったから。
お前が、自由を運んできてくれると分かってしまったから。
全部、全部。
嫌で嫌で仕方がなかったこの身に流れる呪われた血のお陰。
だから、だからね、白蘭。
お前は悪くないんだよ。
あの刺客が悪いんじゃない。
裏切った彼らが悪いんじゃない。
子どもを信じない親が悪いんじゃない。
優しいお前に甘えてしまった俺が一番悪いんだ。
自由が欲しいが為に、光を失って。
お前を悲しませて。
だから、だから。
「……ごめんな」
だから、泣かないで。
「つなクンは悪くない、悪いはずがないでしょ」
…泣かないでよ、と抱き締められた。
泣いて、る?
でも、でもね白蘭。
涙を流すくらい今日だけは許してよ。心からお前に謝らせて。
「…明日からは笑おうね」
後悔も、贖罪も。
この涙に流してしまおうよ。
お前と同じ景色を見れないのは、悲しいけれど。
お前が優しくずっと手を握っていてくれるなら。
ほら、暗闇の世界に光がやわらかく射し込むんだよ。
きみのおもかげをうつす
(それだけで生きていけるよ)
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