生に泣く


「白蘭、おかえり」


半年もたてば声も元通りになった。心配していた隈もすっかり消えて、体調も万全。

死ぬ気の炎も使えるんじゃないかな?


未だに1人じゃ屋敷内を歩かない綱吉クンは、僕が外回りに出れば自然と僕の部屋でお留守番するようになった。

彼にあてがった部屋は綱吉クンの物置と化している(まぁいいけどね)。


「ただいま、綱吉クン」

お腹すいたでしょ、と手を引いてダイニングへ。

「今日の晩御飯なんだろ」

何も知らない綱吉クンは、よっぽどお腹がすいてるのかお腹をさすりながら呟く。


なんたって今日は綱吉クンの誕生日。ご馳走にも程があるって程のご馳走だ。

偏食の僕と違って何でも食べる綱吉クンはシェフからもお気に入り。

笑わないけど美味しそうに食べるのは見てて分かるんだって。

「えっ!何これ」

テーブルを見てご馳走に驚いたらしい。本当に誕生日忘れてるみたい。


「「「誕生日おめでとう!!」」」


席についているメンバーにも驚いている。真六弔花は勿論、ユニちゃんやγ、アルコバレーノに至っては風、ヴェルデ、スカルまでいる。

皆、綱吉クンを信じて、ボンゴレから距離を保った者達だ。


え?え?と混乱する綱吉クンの手を引いて、主賓の席に座らせた。


「皆、お祝いしたいんだって」

真六弔花は時々一緒に食卓につくものの、普段二人きりで食事をする僕らにとってこの大人数は初めてのことで。

彼らが綱吉クンを信じてくれたことは事前に話していたから、嬉しそうに皆を見回した。


「皆、ありがとう…」


笑わずに、けれど嬉しさが伝わる言葉に、皆悲しみと嬉しさが織り混じった視線を綱吉クンに投げかけた。

その日の食卓は忘れられないほど賑やかで、楽しいものになった。


「「「おやすみなさーい」」」


楽しい一時はあっという間で。皆にお別れを告げて寝室へ2人戻った。

「楽しかった?綱吉クン」

「俺ばっかり楽しんだ気がするよ…白蘭は楽しかった?」

「モチロン♪君が楽しめばいいんだよ、君の誕生日なんだから」

寝室にたどり着いて、ソファーに座らせる。お酒も入っていたからふわふわ気持ちよさそう。

さて、と。
1ヶ月悩み抜いて、考えたプレゼント。

ずっと一緒にいて気付くことは、綱吉クンが欲しいものは高価なものじゃなくて、質素なものでもない。

手に入れやすそうで、手に入れにくいもの。

壊れやすそうで、堅く、強固なもの。


人との、つながり。


「はい、綱吉クン」

僕からのプレゼントだよ、と小さな小箱を渡した。

「、開けて、いい?」

綱吉クンは目を見開いて、そっと、割れ物を扱うかのように小箱を開いた。


「………マーレ、リング?」


きらきら、輝くそれは、マーレリングに違いない。


「レプリカだけどね、材質とかは一緒だよ」

炎を込めたりはできないけれど。素人にはどちらが本物かは分からないほど精巧な造りになっている。

「…なんで、」

「マーレリングは僕らミルフィオーレの絆の証」

それを渡すということは。


「綱吉クンは僕らの家族だよ」


「か、ぞく……」


形は大空だから僕とお揃いだよ、と指に嵌めさせた。

(ちゃっかり左の薬指なのはご愛嬌)


つぅ、と綺麗に輝く雫は綱吉クンの頬を伝わる涙。


「……っ、死ななくて、よかった…!」


拳を握りしめて、涙を耐える彼に、そんな事を考えてたのか、と驚きつつ涙を拭う。

当たり前、か。
笑えなくなるほどの絶望は、死を渇望してしまうほどの悪夢でしかない。


「…うん、生きててくれて僕も嬉しいよ」

涙で光が反射して輝く琥珀の中に、真っ正面から僕が映る。

「…うれ、しい?」

ぎゅっとマーレリングを握りしめる手の上から手を重ねて。

出来るだけ、出来るだけ。
この気持ちを伝えたい。

心から、心から。

人を騙し騙される世界にいる僕が言うのも可笑しいけれど、僕に信頼を求めた君だから。

僕の言葉を信じて欲しい。


「生まれてきてくれてありがとう」


伝わる?伝わってる?
君を想うこの気持ち。

ねぇ、ねぇ。

僕は臆病だから、この先は今は言えないけれど。


愛しているんだよ、心から。


一から築き上げた友情なんて欠片もないし、育て上げた情なんてものもない。

彼奴の代わりにはなれないのは分かりきっている。


それでも、それでも。
君の幸せを祈ってるんだよ。



その時だった。


「ありがとう…」

ふわり、笑った。


わらっ、た。


半年前までは見慣れていたはずの笑顔なのに、胸から何かこみ上げてきて。


気付けば、泣いていた。


「白蘭」

ぎゅっと細い身体を腕の中に閉じ込めて。

どうしよう、嬉しくてたまらない!

おずおずと僕の腰に手を回す綱吉クンに、さらに気分が高揚して。


「笑った……!分かってる?綱吉クン、笑ってるんだよ」

ぇ、と僕の言葉に驚いて、ほんとに?と笑った。

やっぱり無意識だったんだ。笑顔を消していたのは。


「どうしよう、涙が止まらない」

ぼろぼろ、僕の瞳から流れる涙は、久々の出番すぎて止まり方を忘れちゃったみたいだ。


「ふふ、俺もだ」


腕の中にいる綱吉クンを見れば、幸せを噛み締めてる、ような。


「本当に、本当にありがとう、白蘭」


おれも、あいしてるよ。


綱吉クンの口には出さない、けれど伝わる愛の言葉が心を浸して。

ああもう。
君は僕の涙を枯れさせるつもりなの。


「白蘭に、お返しがしたい」

たくさん、たくさんくれたから。


お返し、だなんて。
僕は君の笑顔が見たかっただけなのに。


「じゃあ、ひとつだけ」


叶えてくれる?と抱く手を強めれば、俺に出来ることなら何でもするよ、と懇願された。



「ずっと、笑っててね」


返事は、君の極上の笑顔で。


きみのせいにかんしゃして
(いつか涙が尽きるほど)






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