生に泣く
どうやったら笑ってくれるだろうか。
僕のエゴかもしれないけれど、暗い過去に脅えて憂鬱に過ごすより、そんな過去を切り捨てて前向きに気楽に笑って過ごした方がいいに決まってる。
切り捨てられなくても、笑って過ごせば、傷も癒えるのが早いはず。
綺麗事はここまでで、下心はやっぱり自分の為で。
見たい、見たいんだよ。
あの、皆を幸せにする笑顔を。
誰よりも近くで見れる立場になったんだ。なら、願ってもいいよね?
だから、作戦決行だ!
@プレゼント作戦
どさり。
綱吉クンの驚いた顔が笑える。
綱吉クンにあてがった部屋にプレゼントの箱が山積み。何が欲しいか分かんないから質より量で。
「どお?綱吉クン」
中身は服だったりお菓子だったり。女の子じゃないけど花まで準備してみた。
好きだと聞いていたゲーム類だって。
ウキウキしてプレゼントの中身の説明を終えた僕が振り返ると、綱吉クンの顔が引きつっていた。
『あ、ありがと…』
失敗した。
日本人は質素っていうよね。
難しい。
あ、でもゲーム類はちょっと嬉しそう。
よかっ、た…?
Aデザート作戦
甘いものは幸せにする力があるよね!
ってことで綱吉クンを引っ張ってダイニングへ。
出歩くのを嫌がる彼を僕と一緒なら屋敷内を回れるようになった。
テーブルの上にはずらり、デザートが並んでいる。シェフに頼んで一晩かけて作ってもらった。彼には後で特別給付を与えなきゃね。
きらきら、ケーキにタルト、シュークリーム。パイにクッキー、ゼリーまで。
色とりどりの甘い世界に僕の方が誘惑されちゃいそうだ。
「どお?綱吉クン」
ウキウキしながらフォークを渡せば、綱吉クンの顔が引きつっていた。
『あ、ありがと…』
失敗した。
甘いものには限度があるみたい。
僕ならペロリなのにな。
黙々と食べる綱吉クンを見れば目が綻んでる、気がする。
連れてきて1ヶ月、ずっと一緒にいれば表情もなんとなく分かってきた。
痩けた頬も元通りになってきたし、血色も良くなってきた。
笑顔は見れなかったけど、まあ嬉しそうだからいっか。
Bお出かけ作戦
ざ、ざーーん。
塩の匂いが鼻をくすぐる。
何もかも忘れさせてくれる、包んでくれる海が好きで、隠れ家も海の近く。
徒歩で行ける距離だけれど、綱吉クンを外に連れ出すのは初めてだった。
綱吉クンの震える手を引いて、砂浜を歩く。
「大丈夫だよ、ここはミルフィオーレの領地だから」
十年後とまでは行かないけれど、そこそこに勢力を伸ばしてきた。そんじょそこらのマフィアには下手に手を出されなくなった。
『白蘭、綺麗だね』
少しずつ、声も回復に向かっている。喉に負担をかけないように大きな声は出しちゃ駄目だよ、と言い聞かせながら。
「でしょ?お気に入りなんだ」
地平線を一望できる海岸は、今僕ら2人だけのもの。
コバルトブルーからエメラルドグリーンに変わる波は静かに僕らの素足をそっと冷やす。
最初は脅えて震えていた手も、時間が立てばしっかりと僕の左手を握っていた。
身体中の傷も癒えてきて、体力も戻りつつある。あと1、2週間もすれば元通りかもしれない。
ミルフィオーレが医療に特化しててよかったよ。
風を気持ちよさそうに受ける綱吉クンを見て、もしかしたら笑ってくれるかもしれないな、と満足していたら、綱吉クンの目の下に深い隈があるのを見つけてしまった。
「ぇ、何その隈…」
繋がれていない方の手で目の下を撫でれば、くすぐったそうに身を捩った。
「あんまり、寝れてない?」
申し訳なさそうに眉を下げる綱吉クンは、ごめん、と呟いた。
『寝ようと目を瞑ったら思い出しちゃって…』
気付かなかった。なんて馬鹿なんだろう僕って!
寝れてないのに外に連れまわしてさらに体力を削ぐなんて。
失敗した。
「…寝るとき、僕の部屋においでよ」
『ぇ』
「綱吉クンが寝るまで見守っててあげるから」
綱吉クンの能面に赤みが増す。
『…………うん』
恥ずかしがってる。困った。
そんな反応するからこっちまで照れてきた。
この日から、寝るのは僕の部屋で寝るようになった。
仕事を終わらせて、ベッドへ向かえば震えてる小さな山。
最初こそ緊張していたものの、時が過ぎれば過ぎるほど、綱吉クンは寝れるようになっていた。
腰を抱き寄せてぎゅっと抱き締めれば、震えは収まって。途端に聞こえてくる安定した寝息。
普段はあまり睡眠を必要としない僕も、小さな温もりに絆されて、夢の中へ落ちていった。
きっと、これで体調も快方へ向かう。
心なしか、表情も和らいできている気がした。
失敗続きの作戦も、彼の心の治癒に少しは役立ててればいいけれど。
ゆめのなかでもまもるよ
(だから、笑ってみせて)
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