だからせめて、
終わりには意味を



「もうそろそろかなぁ」


向かって話すのはPC画面。頬杖をついてため息をつくのはもうすぐ終わりが見えているから。

『はやくやめてよ、なんでそんな傷だらけになる必要があるの』

画面の向こうの彼は今にも人を殺しそうな雰囲気だ。

怖い怖い。

「しょーがないじゃん、俺の安全な未来のためだよ」

正論を言えば、そんなのわかってるよ、とぶすくれてしまった。

『…終わる時、迎えにいってもいい?』

すねてるのが大の男でも可愛く見えるのはもう末期。自覚してしまったら堕ちていくのは早かった。

「ありがとう、待ってるよ」

お礼を述べれば途端に機嫌は上昇したらしく、『パーティーの準備してからいくよ!!』と通信が切れてしまった。

奴のことだ、有り得ない程盛大に豪華なパーティーになるだろう。


「…あと少しの辛抱だ、」

これが終わったら、彼と会えるのだから、頑張ろう。


ため息は、空に溶けた。


   †  †  †


並盛中、屋上にて。
1人の少年が抵抗もなしに大勢の生徒に暴力を受けていた。


「駄目ツナふざけんなよ!!」

「はやく姫奈ちゃんに謝りなさいよ!!」


晴天の下、怒号が響く。
どうやら少年が姫奈、という少女を苛めているのにもかかわらずその非を認めないらしい。


「…おれ、やってない、よ」

「まだそんな事言ってんのかよ沢田ァ!!」


傷だらけの少年は沢田綱吉。ボンゴレボス十代目として選ばれた心優しい少年。

本当に少女を苛められると思っているのだろうか。

そんな彼に暴力を振るうのは彼の友人だった同じクラスの人達に、先輩達も混ざってる。

特に目立つのはいつも沢田綱吉にひっついていた獄寺隼人と山本武、笹川兄妹。

「ったくなんでお前なんかにつき従ってたんだか」

「親友だとかほざいてた自分を殴りにいきたいのな」

「全くだ!せっかく男として認めていたというのに!!」


すると、今まで伏せられていた顔が上がった。

「…本気で、言ってるの?」

「あぁ!?何がだよ!!」


「俺と一緒に戦ってきたことも、過ごしてきたことも、後悔しているの?」

その、試すような、挑発しているような物言いに、“姫奈”の味方である者達はいきり立った。

「当たり前でしょ!」

「お前との過去なんて意味もねぇよ!!」


キーンコーンカーンコーン…


「…だってよ、リボーン」


口元に笑みを浮かべた綱吉に、全員が疑問符を浮かべた瞬間、どこからか黒衣を纏った赤ん坊が現れた。

「リボーンさん!」


「………お前ら…」

どこか悲しげの赤ん坊に、ほら、お前のせいで!とさらにいきり立つ3人の守護者たち。


バタン、

そこへ、風紀委員長でもあり雲の守護者、雲雀恭弥が入ってきた。

「何群れてるの、昼休みは終わったよ、教室に帰んな」


その言葉に生徒達はぞろぞろと帰り出した。守護者と“姫奈”、以外は。

「雲雀、なんだよ今頃」

「そーなのな、なんで姫奈の為に風紀委員を動かさないのな」

苛めを風紀委員に取り締まらせない雲雀に対し口々に罵り始めた3人を見かねて、綱吉が口を開いた。


「骸、もういいよ」


「………骸?」

「どこにいるというのだ!?」


辺り一面が霧に覆われて、クフフ、とあの独特な笑い声が屋上に響き渡った。

「え?」

「…………姫奈?」


驚くのは3人の守護者だけ。
今まで沢田綱吉から守ってきた“姫奈”が消え、代わりに霧の守護者、六道骸がその場所に現れた。


「やっとお役御免ですか、綱吉君」

「ごめんな、ありがとう」

「いいえ、君の為なら道化師もかまいませんよ」


くふ、と笑う骸は、固まる3人を見てああ、訳が分かりませんよね、とわざとらしく肩を諫めた。

「“姫奈”は僕の幻覚です」

「は?」

「だから、沢田が南国果実にたのんで造り上げた偽物だよ、その女」

だから取り締まる必要も無いでしょ、苛めさえも架空のものなんだから。

雲雀は溜め息をついた。


「ちょっと雲雀君、なんですか南国果実って」

「何、君自分のこと鏡でよく見てないの」

「アヒル君にとやかく言われたくないですねぇ」


ぶつぶつと文句を言い合う二人だけれども、いつものような険悪な雰囲気は出ていないのが不思議で不思議で。


「どういう、こと、だよ」

「…説明してくんないと分からない、のな」


汗が噴き出る。いやな、あせ。

にっこり。
沢田綱吉は笑う。

透き通る声で、裁きを下す。


「失格」


おやおや、可哀相に。と骸が笑う横で、リボーンが帽子を深く被った。表情を、隠すように。

「……失格?」

「君達は、俺の守護者には相応しくない」

だから、失格。


皆の視線が冷たい。居たたまれない。特に誰の視線が冷たいって、あんなに優しい彼が、あんなに弱々しい彼が、人を見下す、目をするなんて。

「ずっとね、試してたんだ。俺の守護者に相応しいか。俺を、心から信じて付いて来てくれるか。」

歴代ボスもこうして選定してたらしいし。


「骸と、ザンザスと。白蘭と、炎真君と。みんな俺の協力者だよ」

一緒に戦って、絆を紡いで。
そろそろ、と思った。

最後の確認。
本当に、俺を信じているのか。口先だけの友人ではないのか。

俺の本性を出すに値する人間なのか。


「期待、してたんだけどね。リボーン、お前の人を見る目。雲雀さんだけだったね」

すまねぇ、とさらに帽子を深く被ったリボーンに、お前を責めてる訳じゃないよ、と優しく笑う。


「…っ、雲雀はいつ…」

「僕は苛めどーのこーのじゃなくてその前に沢田の演技に気付いたんだよ」

見てたら分かるでしょ、僕なんかよりずっと一緒にいたんだから。と言われれば、思わず視線を外してしまった。

気付かなかった。
あれだけ傍にいたのに。


「ちょうど、苛めを仕掛けてから3ヶ月目が今日。さっきのチャイムがタイムリミットだったんですよ」

君達が、誤った選択を正す為の制限時間。

守護者として十代目に仕えれるかどうかの刻限。


「だけど、君達は俺の言い分は聞かずに“姫奈”のことばかり信じて。彼女の言葉に信憑性も皆無なのに」

それでどうして君たちを傍に置いておけると思う?


「だから、返してもらうよ」

ボンゴレリング。


「なっ!」

「そんな!!」

3人の悲痛な叫びが屋上に響いた。

「…っ、何だってんだよ!!お前にそんな権限ねぇだろーがよ!!」


しん…


場が一気に静かになる。というよりは、誰も、声を出せなかった。出したとしても、みっともなく震えていた、はず。

怒気が、殺気が、場を支配した。



「……俺を、誰だと思ってるの」


そのときだった。



「つっなよしクーーーーン♪」

「おぉおおぉぉぉおお!!?」

どしゃあ。

凄い勢いで人が綱吉に抱きついた、と思ったら地面に二人揃って崩れてしまった。


「白蘭!驚かすなよ!!」

「やー、もう嬉しくって♪ってまだ終わってないの?」

もうパーティーの準備は万端なのにーと口を尖らせてぎゅうぎゅうに綱吉を抱き締める。

リボーンがせっかく上に上げた帽子を再び下げてしまった。どうやらあまり見たくないらしい。

何やってんですか!早く離れなさい!!と骸は怒り、雲雀はもうなんか遠い目をしている。1人先に現実から逃げたらしい。


「はい、綱吉クン。ぷれぜんと」

忘れるとこだったよ、と綱吉の手に握らせるそれは。


嵐と雨と晴の、リングとボックス!


「え!?」

「いつのまに!??」


気付けば指からリングはないし、ポケットを探ればボックスも無くなってる!


「ありがとう!助かるよ!」

「なんか揉めてるっぽかったからさー、で、これで用なしだよね?」

「へっ…ってぅおおおぉお!!!」

白蘭は所謂、お姫様抱っこをして翼を広げた。


「意味のない友情ごっこは終わり。まぁ、失くしたのは君達だけどね」


さぁ!三文芝居終了パーティーに出発!!


「ちょ、なにそのパーティーの名前!!」


白蘭がけたけた笑い、ふわり、宙に浮いたところで。


「最後には、意味が分かるよ」

この子がどんな存在か、という意味を。

その言葉を残して、飛び去ってしまった。


「……リング、が…」


呆然とする3人を横目に、緊張が解けたリボーンと雲雀は息をついた。

「久しぶりに見たよ、沢田が怒ってるの」

「骸、お前スゲーな」

「綱吉君とは幼なじみみたいなものですからねぇ」

だとしてもボンゴレの頂にたつ空の王の殺気に近付くなんて出来やしない。命の保証がない。

彼の弱さは造られたものであって、本当の強さは底なし沼。

そこに近付く、否、抱きつくなんて同等の海の王しか。悔しいけれど他には存在しない。


「僕らも行きますか」

「そうだな、チャーターを呼ぶか」

リボーンが電話を手にとって、3人屋上の扉に向かって歩き出した。


「どっ、どこに行くんだよ」

「俺らも連れて行って欲しいのな」


焦る3人に、疑惑の目を向けて。

「は?」

「何しにいくのさ」


「な、何しにって、リング奪われちまったし」

奪い返しにいかないと。


あまりに身勝手で、節理を理解できない言動に、嘆息する。

「もうお前らはボンゴレじゃねーんだ、どうやってもツナには会えないぞ」

「…ぇ」

指輪の返却とは、ボスを裏切るとは、そういうことで。

「ボスに暴力を奮ったのですから逆に行かない方が賢明なのでは?」

ボンゴレ以下同盟マフィアが黙ってはいないだろう。

「ていうかさ、沢田に謝罪の一言も出てこない訳?」

いくら試したと、騙したといっても。暴力を±にしたとしても。

主に忠誠を誓った身ならば。


「…………ぁぁ、」


信じれなくて、悪かったと。
愚かだった、と。

過ちを認めることが、難しいの?


膝から崩れ落ちた3人は喉から出てこようとする謝罪の言葉を必死で押し留めていた。

一緒に何かも零れ落ちてしまいそうで。


「彼が十代目になったのは5才頃。彼の能力を見る限り決定的だったと。」

けれど、有望なボス候補を他のマフィアやボス候補は黙ってはいなかった。

裏切り、騙され、殺されかけて。

そんな汚い世界を潜り抜けて、待っていたのは一生を左右する守護者の人選。


「そりゃあ慎重にもなりますよ」

そんな、彼を見守り続けて、一生仕えようと決めた僕らは。


絶対に君達を許さない。


「よかったな、ツナが優しくて。おまえ等にお咎めは無しだ…ただ、もう裏世界で生きていけると思うんじゃねーぞ」


「……っ」


「言っとくけど表でも簡単に生きれると思わないでよね。全部、公表してあげるから」


「そんな!」


「クフフ、我らがボスは『俺は手を下さない』とだけ言いましたからねぇ」


僕らがどう復讐してもかまわないって!


うなだれる3人とは対照的に、雲と霧、そして黄のアルコバレーノの笑い声が学校に響き渡った。


   †   †   †



「かわいそーな3人」


豪華絢爛な食事に、大勢の人だかり。見渡せばよく見知った顔ぶれがちらほら。どうやら芝居の協力者のみならず同盟マフィアの幹部は全員集まっているみたいだ。


「心にも無いこと言うなよ」


その会場を見渡せる窓際に立って、食事に舌鼓を打つ。


「半分思ってるよ、今頃あの君に心酔してる3人が裏切り者を制裁してるんでしょ。ざまーみろ、だよね!」

「半分って何だよ」


「だって君に謝ることすら出来ないんだもん」


会いに来ようものなら門前払いもいいところ、殺されたって文句は言えない。

世界を支える今日集まった顔ぶれが、彼の人脈であり、才能だ。

彼の一言で、世界は意図も簡単に傾いてしまうだろう。


沢田綱吉とはそんな存在。


「ほんと、愚かだね」

ぼそり、と心の内を吐露して。


「…何か言ったか?白蘭」

世界の頂とも言えるこの子の寵愛を自ら捨ててしまうなんて!


「なーんも?」


さぁ!お祝いしよう!

彼の人生から裏切り者を排他したのだから!


おわりははじまりのまくあけ
(苦労も報われるってこと!)






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