逢瀬は波間に


俺達が出会うきっかけにもなった小さな小さな病院は、少し小高い丘の上にあって。

いつも座るベンチからは鮮やかな海が開けていた。

誰も訪れない海岸に、俺達ふたりはよく散歩に出歩いた。

裸足になって、砂の感触を直に触って。

さらさら、砂が指の間を通る静かなひととき。


この海を見ている時だけは、この世界は俺達を祝福しているかのように錯覚させられた。

世界を巻き込む戦争の“頂”同士、そんなことあるわけないのにね。


「君に出会う前も、出会ってからもここはお気に入り」

手を繋いだ先の、白蘭が笑う。

海と空が交じる世界を背負う彼は、正しく王者、にしか見えない。

きっと神様がいたらこんな無邪気で、残酷なことをやってのける、けれど愛しい、彼のようなのかもしれない。


「びゃくは青が似合うね」

そら、とうみのいろ。


ほんと?と首を傾げて笑う彼が、つなにも空色は似合うけど、と。

「やっぱり橙が似合うね」

ひかり、のいろだよ。


ほら、今もつなの目にはきらきら太陽の光が溶けこんでる。

そう言って、白蘭は俺の目尻に口づけを落とした。



絡まる視線に、お互い、言いたいことは分かっていた。

言いたくても言えない、きっと言葉に出してしまえばもう止まらなくなってしまう。


未来への、渇望。


だから、綺麗な言葉で和らかく包んで。

あまりにも真っ直ぐな言葉は、激情は、きっと君を傷つけてしまうから。



「ここで、また、会えるなら」



戦争は、血を呼んで、恨みを生んで。さらに血を呼んで。

抜け出せない負の回廊に、迷い込んでしまった。


もう、引き返せない。

もう、引き返さない。


君と繋いだ手は離せない。



「心から、笑いたいね」



海と空が交わる境界線に。

この手が離れないことを祈って。



ふたり、世界を望んでいる。


せかいをこわして
(ふたり、離れるくらいなら)






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