悲しい色が似ている


「君の、色ですね」


土手に腰掛けて、ふたりきり。

橙に染まるふたりは夕暮れを見つめて。
いつも何とはなしに見ていた夕暮れが、何故か悲しく見えたのを覚えている。


それでも、それでも。

繋いだ手は何処までも優しかった。


それは、大切だったものが手から零れ落ちて佇んでいた日のこと。


もう、十年前の話。


「準備、整ったよ」

かちゃり。
ティーカップをテーブルに置いてひそひそ話。

同じソファーに身体を沈めて、密着にも程がある。


霧のリングで作っている幻の部屋だから誰にも入れないし誰にも話なんて聞こえないけれど。
一応、ね。一応。

間違ってもひっつきたいから小声で話してる訳ではない。

うん、そんな訳じゃあない。


「ニヤニヤすんな、ばか」


だって君顔真っ赤なんですもん!と言う骸の顔だって赤い。

二人して何してんだか!


こいつが悪い。顔が無駄に良すぎるせいだ。


十年前から変わらない距離。
恋人でも、友達でもない。

ただ、傍にいて。

ただ、彼奴らを憎んで。


少しだけ、触れ合って。


赤と青の双眼が優しく細まる。

「綱吉くん」


いよいよですね、と手を引かれて。
そのまま骸の腕の中。

「もうすぐ檻から出れる」


君を、自由に出来る、と宣う骸の心臓の音が煩い。


自由になれる高揚感なのか、
明日の惨劇を思う期待からか、

俺を抱き締めてるからなのか。


骸を見上げれば、真っ赤な顔。

震える手に気付けば一層愛おしくて。


十年間も傍にいて全く慣れはしない、焦れったくても大事にしたいこの距離は。

裏切った彼奴のお陰とでも言うべきなの。


「…あぁ、君の色ですね」

気付けば空は赤く染まっていて。
もう日は沈む。


「あの日の色と似ている」

俺がそう呟くと、骸は抱く腕を少し強くした。


† † †


十年前、就任直前にやってきた新たなボス候補。生き残っていたらしい彼と俺との間で覇権争奪が起こった。

結果は呆気ない程すぐ着いた。

気付けば皆俺の手をすり抜けて、彼の下へ。


「あなたじゃ、頼りにならない」

その言葉が今でも耳にこびり付いて離れない。


リボーンは、立場上何も言えないらしく、珍しく悲しい顔をしていた。


でも、ただひとりだけ。

守護者の中で彼だけは俺の傍にいてくれた。

いつも、敵か味方か判らない、そんな彼が。


何故俺を選んでくれたかは聞いていない。


ただ、優しい手の温もりだけで彼を信じてしまった。


そして、あの夕暮れの日。

十代目が彼に決まったことを告げられた。


ところが継承式で事態は急変した。リングが彼を拒絶したのだ。

すぐ調べれば分かる事だったろうに、彼はボンゴレの血統でもなんでもなかった。

そうと分かればボンゴレは早かった。

すぐに俺に十代目を移行、ボスに就任させ、幾ら抵抗しても守護者は裏切った彼らのまま。

リボーンは呆れてボンゴレから離れてしまった。

俺の頼みなら聞く、と連絡先を渡してから。


† † †


それから十年間、我慢の日々。
どうして簡単に裏切った彼奴を、散々に俺と骸を罵倒した彼奴を、周りに置いとかなきゃいけないの!

しかも「霧は裏切るから」だのぬかして骸を俺から遠ざけようと四苦八苦。


でも、それも今日まで。

明日、俺達はボンゴレに奇襲をかける。

十年前に、密かに立ち上げた新しい組織で。
ミルフィオーレ、シモンを同盟に、3つのマフィアで総攻撃。


彼奴に、勝ち目はない。


「ずっと望んできた自由」


日が、沈んで。
闇が静かに迎えにくる。

ほら、俺の色が、君の色に溶けていく。

橙から、紫に。


「何故、泣くんです」


わからない、わからないんだ。

どうして、

どうして悲しいの。


待ち望んだ未来が見えているというのに、何故か悲しい。


十年前に感じた喪失感を、今また感じている。

けれど、あの時とは違う。


「選んだ、だけだ」

ずっと傍にいてくれた闇色の彼と、裏切りと媚びを振りまく彼奴と。


失くすのは寂しい、けれど。

彼との未来を天秤にはかけられないから。


俺は、きっと今見ている色を忘れることはないだろう。


「すぐに、思えますよ」

「…何を?」


「悲しい色は、美しい色にと」


そうだね、

きっと2人なら。


あの十年前の空もいつか色鮮やかに美しく思えるはず。



かなしいいろをぬりかえて
(君となら、きっと、きっと)






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