黄昏を海に沈めて
君のいない世界を、ただ歩く。
君と出逢った浜辺で、
君と歩いた砂浜を、
ひとりきり。
君のいない世界はなんだか暗くて気持ち悪い。
砂浜に残る足跡がひとつしかないなんて。
いつも繋がれてた左手が今は温もりを感じないなんて。
「なんで、いないの」
ぽつりと呟いた言葉に返る優しい声も今は聞こえない。
† † †
「許さない」
君はそう呟いた。甘ったるい顔に似合わない言葉。
「ほんとに、いいの?」
返事はない。
大空と称された彼の瞳は伏せられたまま。
「ねぇ、」
「いいんだよ、あいつらに分からせてやりたいだけなんだ」
―俺が、あの事を忘れてなんかいないって。
困ったように微笑む君は昔から変わらないけれどやっぱりどこかが違う。
「…君は、どうするの」
ぎゅっと手を強く握れば、伏せられた瞳がやっと僕の瞳に映る。
甘く甘くとろけそうな琥珀色が優しく細くなる。
「指輪は託すよ、俺の気持ちはきっと初代達も分かってくれてるから白蘭に力を貸すと思う」
「綱吉クン」
「綺麗な世界をつくって」
ね、とにっこり笑う君に何も言えなくなる。
ねぇ、違うんだよ、そんなことが聞きたいんじゃないんだよ。
そんな、決意のこもった目を向けられたら何にも言えないよ!
「白蘭、わかって」
「つな」
「おれ、殺されるならお前がいいよ」
駄目だ、涙で君が見えないよ
その日、マフィア界に激震が走った。
ボンゴレが壊滅した、と。
非同盟のマフィアにボンゴレの機密情報を少しずつ流され、内側から壊されていったらしく、守護者も皆消息が不明という。
しかも、その情報を流していたのがボス・沢田綱吉。
理由は不明で、本人も数日前から行方不明だという。
ただひとつ、ボスの机に残された手紙には一言。
『ゆるさない』とだけ。
† † †
「謝れば、良かったんだよ」
誰もいない砂浜を歩く。
陽が沈んだ海は静かで、波の音が耳に響く。
綱吉クンがボス就任してすぐに、情報流出があったらしい。それを守護者含めアルコバレーノも、家族でさえも綱吉クンを疑った。実際はボス就任を良く思わない古参の上層部の仕業。
綱吉クンの言葉も聞かず罵倒と暴力の日々だったと。
その日々の終わりも呆気ないもので、上層部が自身で暴露してしまったのが最後。
疑いは晴れたけれど周りの奴らは謝りもしなかったと。それどころか「釈明が足りなかったんだ」と怒鳴られたと。
俺の言葉なんてひとつも届いてなかった、と零した君の瞳は復讐で輝いていた。
「だから、同じことをしてあげたんだ。二度も俺を疑えないだろ…大事な大事なボンゴレを壊してやる」
でも、君はボスでしょう、と問えば。
「うん、責任をとらされちゃうね…だからさ、白蘭」
おまえが、ころしてね。
そう言って笑った君の顔が瞼の裏にこびり付いて離れない。
確かに、他の奴に殺されるぐらいなら僕の手で殺したい。
でもね。つなクン。
あの日から僕は銃の引き金が引けなくなっちゃった。
手が震えて仕方が無いんだ。
洛陽、黄昏。
光が消える。
ねぇ、つなクン。
綺麗な世界は造れたよ。
でもその為に君を失うなんて可笑しいでしょう!
さみしい、
さみしいんだよ。
さみしい。
なみだはうみへととけた
(もうこの世界に光は戻らない)
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