何もないと泣く、貴方が好き


「綱吉君、何かあったでしょう」

部屋の窓から侵入して開口一番。(玄関あるんだけど…という声は一切合切スルーです)

ちらりとアルコバレーノと視線を合わせると僕の方に向き直した。


「なにも、ないよ」

僕には悟らせない、そんな強い眼を真っ直ぐ向けた。


その強い意志を秘めた瞳は好きなんですけどね。今はそんな眼は見たくないんです。


「本当に?何か、可笑しなことが起きてません?」
口元に手を当てて、わざとらしく首を傾げる。


一瞬、ゆらりと瞳が揺れた、けれども。

「…なにも、ない、よ」


へらり。
力無く笑う君の顔と言ったら!笑えてると自分で思っているんでしょうが、こちらが嗤える程笑えてないんですよ。


あぁ!イライラする!!


「…昨日見知らぬ女が黒曜に来ましてね」

びくり、綱吉君の身体が震えた。目を見開いて僕の次の言葉を待つ。


「君に虐められてる、と言うのですよ…それで並盛に来てみたらどう見ても君の方が傷だらけ」


「…君が、虐められてるんじゃないんですか?」

「骸!!!」

アルコバレーノが焦ったように口を挟んだ。なんです、とアルコバレーノに視線をやれば。


「お前言い方ってモンがあるだろう!!」


怒る理由も分かる。そりゃああなたにとって綱吉君は大事な生徒。けれど、僕にとってだってこの気持ちは譲れない!


「事実をそのまま伝えただけでしょう!それにそう言わなければ綱吉君はしらを切るばかりです!!」


「だが!!」


何かまだ言い足りないアルコバレーノをそのままに、綱吉君の傍に歩み寄る。


「ねえ、綱吉君。どうなんですか」

傷だらけの手をそっと握れば。

ぼろり、

ぼろり、


ぼろり。


大粒の涙が今まで我慢してきた反動なのか止まることを知らないように頬を流れ落ちる。


「………はっ………のにっ」

ぼそりと呟いた言葉が聞き取れず顔を近付ける。


「綱吉君、なんですか」

そっと優しい声で尋ねて。


「むくろだけにはっ…知られたくなかったのにっ…!!」


こんな、こんな無様な、と泣く君は。
なんて、なんて!


僕だけに、僕だけに知られたくない、ということは。

つまり、つまり。


甘い痺れが脳天を貫く。


「……きらわないで、おれのこと、きらわ、ないで、むくろ」

子どもの様に愛を呟いて泣きじゃくる彼に、はぁ、とひとつため息をすればびくりと身体を震わせた。


「、失望しました」


え、とさらに涙を溢れさせる君の涙を両手で掬って。


「それぐらいで君を嫌いになるほど僕を小さい人間だと?」


ぇ、ちが、と慌てる彼につい笑ってしまい、僕の笑いにつられてゆるゆると彼は笑った。

うん、その顔が好きなんですよ。その顔が、見たかった。


「安心しなさい、綱吉君。君が次に目を覚ました時には全てが終わっています」

「むくろ」


「好きですよ、綱吉君」


ふわり、と幸せそうに笑って、彼はもう夢の中。

額にキスを贈り、ベッドを整えれば。

完全に空気だったアルコバレーノから何か言いたそうな視線。

「…なんです」


「なにをするつもりだ」


そりゃあ、勿論。

「復讐に決まってるでしょう?…まぁ、綱吉君が悲しまない程度に、ね」


アルコバレーノが目を見開く。甘い、でしょうね。でも綱吉君に嫌われたら元も子もないですから。


「…ツナを泣かすんじゃねーぞ」

勿論、言われなくても!
やっとお互いの気持ちが通じたのですから!


二階の窓から飛び降りて、目指すは並盛中学校。


さぁ、愛しいあの子のために。


きりはちのあめをふらす
(愛しいあの子が泣き止むまで)






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