きっと幸せは刃物のようなものだから
あぁ、なんてくだらない。
「起きろ、ダメツナ」
じゃきり、と音がして銃を頭に突きつけるのは自称世界一のヒットマン。
そんな殺気も無いのに夢から覚めるわけないだろ。でも後が面倒なので驚いたふりをして飛び起きる。
「う、わぁぁあ!リボーン朝っぱらから何なんだよもう!!」
「うるせぇ、ダメツナが。さっさと起きて学校行きやがれ」
「…学校」
寝ぼけ眼のふりをして、時計をちらりと見やる。うん、ダメツナらしいギリギリ遅刻ができる。
ばたばたと準備をして玄関を開けると見慣れた銀色の髪。
「おはようございます!十代目!!」
「おはよう獄寺君」
他愛もない話をしつつ歩けば、ほらきた。
「はよ、ツナ!」
「てめー野球馬鹿!!馴れ馴れしく十代目に触んじゃねぇよ!!」
そのまま風紀委員に急かされつつ門をくぐって教室へ。ダメツナらしく、授業を受けて、ダメツナらしく馬鹿にされ、きっと今日も家に帰ればダメツナらしく扱かれて。
なんて変わらない毎日、
平和で平和で。
「…つまらない」
この現状を打開することが起きると超直感が知らせてくれてるのにな。
いつになることやら。
山本は部活、獄寺君は先生に呼び出されたみたいで今日の帰り道はひとりきり。夕暮れを背に商店街を歩けば。
「ダメツナじゃん」
「おっなぁなぁ俺らの相手してくれよ」
暗闇に連れ込まれて、サンドバッグになれと。うん、こーゆーのを待ってたんだよ!
「いいよ!」
怯えるふりなんて、いらないよね?
† † †
「…草食動物?」
あ、しまった夢中になりすぎた。返り血まみれで今も殴っている状態じゃあ言い訳が苦しい。
「これはこれは風紀委員長様」
双眼が細くなり、眉間に皺。
「茶化さないでくれる…何してるの」
あ、怒らせちゃった
「暇つぶし、ですよ…こいつ等の。相手してあげたんです」
もう一度顔を殴ればべきゃり、と倒れた。あれ、顔の骨折っちゃった?
「そっちが素なの」
「だってこれだと皆ちょっかい出してこないでしょう」
あれ、顔が引きつってる。そんなに嫌?
「…そうだ、雲雀さん。イタリアの方から転入生来たりしません?もうそろそろ」
「…なんで知ってるの、来月来るよ」
来る!!!
これだ!!こいつを待ってた!!
「…っく、くくく」
駄目だ、笑いが止まらない!あぁ、顔が歪むのを隠せない!
「…沢田、何がしたいの」
雲雀さんが呆然としてる。今日は雲雀さんの色んな表情が見れるなんてお得な日!
「雲雀さん、俺ね、不幸になりたいの」
はぁ?と顔をしかめられた。そりゃそうだよね。分からないでしょう、分かりはしないでしょうあなた達には!
「あなた達がほざく幸せだとか、平和だとかもううんざりだ」
幸せそうに笑う俺の周りの人間を見ると、グリグリとナイフで脇腹を抉られている感覚に陥る。俺の中に流れる血が、魂が。もっと、もっと血を、暴力を、と叫ぶんだよ。
ねぇ、初代。
これがあなたの言う業だと言うの。それともそれを言い訳に俺が歪んじゃったせい?
「だから、待ってたんです」
「…その転入生がなんだっていうの」
そのナイフが俺の喉を突き破る前に。
「俺の『皆がほざく幸せ』を、壊してくれる人です」
ほら、そのナイフを小気味よいほど爽快に折ってあげる!
ゆがんだそらはわらった
(生温い幸せなんて糞食らえ!)
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