例えば
優しい人になりたかった



「優しい、人にですか」


返事は、ない。
血と硝煙の臭いが立ち込めるこの瓦礫の上で生きている者は僕等2人しか存在せず。

血に塗れた小さな拳は少し震えているみたいだった。


「君ほど甘い男はいないと思いますけどねぇ」


かちり。
ずっと下を向いていた瞳が上げられて、視線が絡まる。


「…優しければこんな結末にはなってなかった」


こんな結末、とは。

どこかのマフィア関係らしい女が並中に転入してきたのはまだ記憶に新しい。その女(名前さえも覚えてない僕は本当に薄情ですね)はボンゴレが欲しいために綱吉君を陥れた。

結果、綱吉君を信じたのは僕のみ。

あんなに懐いていた不良も、親友だとほざいていた野球馬鹿も、一番傍にいたであろう家庭教師も。
今は後悔しながら空の上!

笑いたい衝動を堪える僕こそ優しさが足りないのは自覚している。


「優しければ、」

ぼろり。

え、泣くんですか
彼奴等如きのために涙を流すのですか!


「お前を巻き込むこともしなかった」


…僕の為の涙!

「復讐しましょう」なんて囁いたのは僕なのに。なんて君は優しい人。


歪む口元を隠し抑えて、「犬や千種、クロームは自己責任なのですから」と応えれば。


「むくろ」

ぽろりぽろり。

愛しい愛しい君の声。
この子を手離したのはボンゴレ最大の汚点でしょうね、ってもう存在すら跡形なくありませんけど。

「君は十分優しい…その優しさにつけ込んだあいつ等が消えるのは妥当です」

偽りが崩れた瞬間、掌を返して謝罪もせずまたボンゴレに引き込もうとした奴らの顔を思い出せば吐き気がする。

「むくろ」

「ほら、泣くのは止めなさい…何のしがらみも無くなったのだから」

後は笑うだけでしょう?

そっとその小さな肩を引き寄せて、傷だらけの身体を抱き締めた。


「…あいつ等のせいで随分消費したかとは思うのですがまだ優しさは残ってます?」

「へ?」


「残った優しさは全部僕にくださいね」


初めて交わした口づけは、血と硝煙の味がした。



やさしいきみをひとりじめ
(僕の少ない優しさは愛しい君の為に!)






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