夜が明けて


そのまま、当たり障りのない会話をして別れた、はず。

会話なんて、頭に入ってこなかった。


ただ、聞き慣れた、優しい声が震えているのは分かった。


分かって、しまった。


自分がいつ泣き始めたのかは分からなかった。

白髪の彼が揺らめいて、ぼやけていたのに気付いたのは扉から出る瞬間だった。


駄目ツナ、どーだったんだ、とリボーンから問われてもうん、としか答えられず。


後からどんな制裁があるかも知れないのに曖昧な返事で部屋に閉じこもってしまった。


だって、耐えきれなかった。

彼奴の暴力よりも、
彼奴の嘲笑よりも。

彼からの拒絶が怖かった。


胸に広がるのは恐怖と喪失感だけで。

“裏世界を知らない俺を愛してくれる人”は消えて、“頂にたつ俺が愛した敵”が残ってしまった。


どうしよう、どうしようか。

きっと彼は『ボンゴレ十代目』について調べ上げているはず。

あの十年前の件だって。


彼が、彼でさえもあの女を信じてしまったら!


もう、どうすればいいの。


それから数日間、病院に行けなかった。

会って、罵倒されそうな気がして。


それでも、この情けない心は彼を求めていた。

好きで、好きで堪らなくて。


十年前の件だけじゃない、敵対関係にあるボス同士がこんな風に密会しているのも問題で。

俺はいいけれど彼は。

部下に示す顔が無いだろう。


それでも、それでも。


彼を傷つけると分かっていても。


病院に向かう足を止められなかった。


もしかしたら彼だけは信じてくれるかもしれない、という希望と、いっそ見事なまでに拒絶されたら彼にすがりつくこの気持ちも消えるかもしれない、という期待を込めて。

俺は病院の敷地内へ一歩足を踏み入れた。


そこに見たものは。


ひとり、うなだれる白髪の彼。
いつものベンチにひとりきり。

誰を待ってるかなんて分かりきってる!


じゃり、と土を踏む音が彼の耳に届いて、彼はこちらを見上げた。


「……っ、つな!!」


彼が、駆け寄ってくる。


駄目だ、泣きそう。

彼が名前を呼ぶだけで泣いてしまいそうだ!


「びゃく」

ぼろり、彼の名前を呟けば涙が溢れた。


「つな、ごめん、ごめんね」


ぎゅっと俺を腕の中に閉じ込めて、謝罪を繰り返す彼の目は、赤く腫れていた。


「やっぱり、駄目だった」


なにが、と問おうとは思ったけれど、彼の目が真剣で、言葉が出てこなかった。


「悩んで、いっぱいいっぱい考えたけれど」


「君を苦しめるとは分かっているけれど」


涙が、白蘭の頬をつたった。

なんて、綺麗なの。

失くしたくない、よ。


「君を失うなんて無理だ」


ずっと、ずっと傍にいてよ、と俺の肩に頭を埋める彼を。

愛しいと思わない訳がない!


「…俺のこと、待ってた?」

「…いつ来るか分かんないから毎日待ってたよ」

「…部下に怒られなかった?」

「…帰るのが怖いよ」


ふふ、とお互い優しく笑って。

「ごめん、びゃく」

「拒絶されると思って足が進まなかったんだ」


意気地なしでごめん、と謝れば。


「もう来ないかと思ったよ」

よかった、とふわり笑う彼と。

本当は殺しあう、憎しみあう立場なのかと思えば彼の腰に回る腕の力が無意識に強くなった。

「びゃく、」


「ん?」


ごめんね、ごめん。


「そばに、いてね」


こころをかたわらにおいて
(繋いだのはふたり、王の心)






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