失ったものは


「まただ…」

靴箱に、ゴミが錯乱してる。

どうして、こうなったのだろう。どうすれば、よかったのだろう。


あの日、屋上に呼び出されて『ボンゴレが欲しい』、と例の転入生、リリスに告げられ。

呆然としていたらそれを拒否されたと見なしたらしく。

「まあ、精々後悔してね?」

と一言残し去っていった。


訳が判らないまま教室へ戻れば、冷たい視線が突き刺さった。

「最低だな、ダメツナ」

「出てけよ」


急に告げられる罵倒に、さらに頭が混乱しつつ教室を見渡せばリリスの机の周りには人だかりが出来ていた。

その人だかりの中には勿論山本も、獄寺君も、いた。


「十代目、あなたって人はっ…!!」

「いくらツナでも許されないのな」


いつも、傍にいてくれた優しい目が、剣呑に光っていた。

憎しみと、怒りが溢れて止まらない。


「な、にが」

かすれる声で尋ねれば。


リリスの一番傍にいた京子ちゃんと黒川がリリスを庇いながら、吐き捨てるように言った。


「酷いよ、ツナ君。振られたからって襲うなんて」

「男として恥ずかしくないの」


ぇ、襲う?

その間にもぐす、ぐすとすすり泣くリリスの声。


「俺は何もしてないよ!」


震える身体を諫め、皆に証言すれば剣呑な目はさらにつり上がった。


「謝りもしねぇのかよ!!」

腹に、強い衝撃。
幾ら色んな人と戦ってきたからといって、不意打ちに耐えられる身体じゃない。

しかも殴ってきたのが嵐の守護者!


獄寺君を皮切りに、それからは気が失うまで暴力を奮われ。

微かに見えるリリスの顔は涙の跡もなく、歪んだ笑みだけだった。


数日後、噂はすぐに広まり、京子ちゃんのお兄さん、雲雀さんまでもが彼女の言い分を信じた。

見つかればすぐに制裁を、と殴られ。

俺の言い分なんて聞いてもくれなかった。


黒曜組は不干渉を貫くらしい。そりゃあね、こんな馬鹿げたことに骸はわざわざ踏み込まないだろう。

クロームは彼女を信じたらしいが、骸はきっと真実を分かっている。

「お互いに潰しあえばいいですね」ときたもんだ。


精神も肉体もぼろぼろで、涙さえも出てきやしない。


ねぇ、獄寺君。
君の言う『十代目』は女を襲う奴だったの。

ねぇ、山本。
君の言う『親友』は己の過ちを認めない奴だったの。

ねぇ、京子ちゃん。
俺が好きな子をすぐに鞍替えする奴だと思っていたの。

ねぇ、お兄さん。

ねぇ、雲雀さん。

ねぇ、クローム。


俺は、そんなに信用のない奴だったの。


所詮はリボーンが集めた友情ごっこにしか過ぎなくて。

所詮は『ボンゴレ十代目』に集まった蟻にしか過ぎなくて。


くやしい、

くやしい。


…むなしい。


傷ついた身体を引き摺って家路につけば、開口一番、


「テメェまたリリスを虐めやがったな」

「ツっくんまだリリスちゃんに謝ってないの!」


リボーンも母さんも彼女の味方!最初は戸惑っていた居候達ももう今や完全に俺を敵視している。


「俺、してないって何回言えば分かってくれるの」


ねぇ、母さん。
十四年も傍にいて、実の息子より他人の娘を信じるの。


「まだそんな事を言っているのね」


はぁ、と溜め息をつかれ、呆れた目を向けられる。

「ママン、コイツは俺がねっちょり指導しておくからいーぞ」
「リボーン君、お願いね」


踵を返して部屋に戻る母さんを横目に、ほらまた始まる。


指導という名の暴力が。


ねぇ、リボーン。
気付かないの、気付かないの。

俺があの子を虐めようと思ったら意図も簡単に傷つける力を持っていることに。


お前が引き出した力を、忘れてしまったの。


「そうだ、ツナ。喜べ」

「リリスを婚約者にすることで相手方には許しをもらった…責任はとらないとな」


「は、婚約、者…」

喉がひゅっと鳴る。


涙は流れない。

ただ、流れていくのは。


しんらいときずなと
(壊れた心から流れ堕ちていく)






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