諸悪の根源を叩け



「誰なの?キミ」


知ってるくせに、と言いたげな視線が後ろから突き刺さる。
まぁまぁ、ちょっとは遊ばせてよ。
黄のアルコバレーノと喋るのは初めてなんだし。


「リボーンだぞ、お前がツナか?」

「ううん、僕は白蘭だよ、この子がつな」


僕の背中からぴょこんと顔だけ覗かせて。
極力リボーンと関わりたくないみたい。
ほら、僕に合わせて、と手をぎゅっと握れば。
仕方ない、と口を開いた。


「……なんなの、この赤ん坊」

「ツッくんの為にね、家庭教師を頼んだのよ」

「……家庭教師?」


つなと関わりたいのか母親が間に割って入ってきた。
そんなに必死にならなくても、ねぇ。

何やったってつなの反感を買うだけなのに。


それだけのことをしてしまったのに、ね。



「誰がそんなこと頼んだんだよ」

「え、でもあなたのことを思って」

「俺のこと思ってしてくれるんなら先に俺に一言相談するべきじゃないの」

「でも、きっとためになるわ」

「勉強も、運動もびゃくが見てくれるよ、今までそう上手くやってきたじゃん、
何を今更その赤ん坊に習う必要があるんだよ」

「あなたはビャッくんにちょっと頼り過ぎよ、ビャッくんの負担も考えなさい」

「びゃくの負担かどうかは母さんが決めることじゃない」



「人の気持ちも、行動も勝手に決めないでよ」



ぎろり、琥珀色が母親を睨む。

まさか息子がこんなに言い返すとは思ってもいなかったのか。
可哀想に母親は今にも泣きそうだ。

いや、本気で可哀想とは思ってないよ?



「ツナ、ママンにそんな口きくんじゃねぇ」

「は、もう家庭教師気取りかよ」


優しそうな、弱々しい外見から繰り出される暴言に、
さすがの赤ん坊も目を見開いて。


「とりあえず、俺は認めないから」


その一言を母親に対して発した後、そっぽを向いてしまった。
まさかの口論に、出番が無かった僕はどーしたものかと。


「……とゆーことで僕らは上にあがるよ」

ね、と後ろに隠れる片割れの答えを促せば、にこりと口元だけ笑った。




手を繋いだまま、ぎしぎしと階段を上がって。
ご飯はいらないから、と一言告げてドアを素早く閉めた。


さてはて。
つなに聞いてたのは中学2年で家庭教師が来る手筈。
思いのほか、早かった。

だから、つなは『決起会をしよう』と言ってたのかな。
薄々、近づいてるのを無意識に気付いて、た?

自分の、気持ちも奮い立たせたかったんだろうなぁ。


まぁ、資金は十分に溜まったし。
(前のミルフィオーレとは比にならないくらい)

表世界の信用も盤石だし。
(前の…以下略)

裏世界に名乗りを上げるのも準備は出来ている。
(前の…以下略)


後は、繰り返される歴史に沿って。
上手い事僕らの希望通りに軌道修正していくだけ。


だけ、なんだけど。




「つなー……」


ドアを閉めた瞬間に僕の胸にしがみついて離れなくなった片割れの名を呼ぶ。
背中に腕を回して、ぎゅうぎゅうと抱きしめて来る。

なんて役得。

そっとつなの背中にも腕を回して。
ふわふわした髪に顔を埋めれば。

すー、はぁーと大きく深呼吸された。

何事かと思って顔を覗き込めば。


「充電かんりょー」

ふわり、いつもの笑顔。


「だいじょーぶ?」

「ん、心がドス黒くなるなぁ…」

これが毎日続くのか、とため息をつく彼に。


「その為に僕がいるんでしょ」

と宣えば、よろしくお願いします、と笑われた。






















「見たでしょう、リボーンくん」

椅子に腰掛けて、顔を伏せる親友の妻。


「ああ……」

意外、だった。
あんな弱っちいナリした奴が親にあんな口をきくなんて。

話に聞いてたのは、勉強も駄目で、運動も駄目。
何をやらせても失敗ばかり。

あまり喋らず、陰気な子だと。

9代目も、家光も『ボスの資格なし』と匙を投げたらしい。


ところが、その後にこの家に来た遠い親戚の子供がツナを変えたと。

同い年だけれどもまるで兄弟のようにすぐに仲良くなった2人はどこでも一緒で。
勉強も、運動も。ぐんぐん上達したと。

よく笑うようになって安心した、のだけれども。
仲が良すぎて困るというか。

親より、教師より、友達より。
ツナの世界の頂点はどうもその親戚の子。

依存しすぎて、独り立ちできないんじゃないか、というのがこの夫婦の悩み。


「あの年で手を繋ぐなんて、可笑しいんじゃないかしら」

ぼそりと、心配を漏らす母親。

私と、手を繋いだことなんて、片手で数えれるほどなのに。
私、『私』が母親なのに。


「まぁ、ツナにとっちゃ『白蘭』がヒーローみたいなモンだとは思うが…」


遠い遠い親戚の孤児だという少年、白蘭。
聞くところによると、頭脳明晰で、運動神経も抜群だと。
人当たりも良く、悪い話はひとつとて聞かないとのこと。

ただ、表情を崩さず、いつも笑みを浮かべて。
まるで大人のような仕草に、違和感を感じる、と。
あまり喋らないツナより何を考えているか分からないらしい。

そんな、何も出来ない子供も前に、超人のような子供が現れたら。
そりゃあ崇拝もするだろう。
そしてまたその超人が自分の味方だと思ってちょっと調子に乗ってるのかもしれない。


「躾のしがいがあるってことだな」

「…! リボーンくん、頑張ってくれるの?」

「ああ、女を泣かすような男は駄目だからな」


ママンを1階に置いたまま、2階へ上がる。

親友の頼みでもあるし、それに9代目からの頼みもあるからな。
世界一の家庭教師の腕の見せ所じゃねぇか。

裏世界の頂点のボス育成なんて大仕事、ミスる訳にはいかない。



















「邪魔するぞ」

がちゃり、ドアを開ければ。

ほら、まただ。
先ほども感じた、うすら寒い殺気。
どっちの子供が出しているかは分からないほどの微妙な空気だが。

そして、見下す2人の目。
明らかに、俺を敵視しているのが分かる。


「何?俺たちに何か用?」


ベッドに向かい合わせに座って雑誌を広げる少年ふたり。


「今時の家庭教師さんはノックもしないの?」

不自然なほどの笑顔を貼付けて白髪の少年は厭味を放った。

「ああ……悪かった」


この少年は何故だか不気味だ。
喰われてしまいそう、だ。

根拠はないけれど。
こんな幼い少年に感じることは可笑しいのだけれども。

裏世界の経験が警報を鳴らす。



「突然だが、ツナ、お前にはボンゴレボス10代目になってもらう」

「……何それ」

「ボンゴレってのはな、裏世界の頂点を担う最古の歴史あるイタリアンマフィアだ」

「意味分かんないんだけどなんで俺なの」

「他にも候補はいたが皆死んじまってな、残るはお前1人だ」


はぁ?とツナの眉間に皺が寄る。

「だからって勝手に人の未来を決めないでくれる?」

「そーそー横暴じゃんねぇ?」

僕ら子供の夢を壊さないでよ、とくすくす笑う2人。
というか白蘭の笑いにつられてツナが笑った。

雰囲気だけ見れば全く問題はないはずなのに。
少年達と俺の間には氷河期かのごとく冷たい空気が流れている。



「仕方無ぇんだ、諦めろ」

もう決定事項だ、と暗に伝える。

仕方ない、そう仕方ないこと。
ツナが継がなければ血統を基盤としてきたボンゴレの歴史に終止符が打たれてしまう。
それは絶対に避けなければならない。

ボンゴレが崩れれば、裏世界のバランスが崩れてしまう。

どんなに嫌がっても、相手は裏世界の頂点。
一般人が逃れられる術は無いのだ。


「……何言ってるの、つなをそんなのにならせる訳ないでしょ」

紫瞳が細く尖り、視線を突き刺す。
年端も行かない子供の、する目じゃあない。


「優しいつながそんな血塗れの組織引っ張っていけないよ」

ていうかさせないし。
にこり、口元が弧を描けば。


つい、雰囲気に呑まれて銃をポケットから出してしまった。

そのまま、いつもの癖で安全装置を外そうと、した瞬間。



「何コレ?本物?駄目だよ赤ん坊が持ってたら」



いつの、まに?

俺の愛銃が白髪の少年の人差し指でくるくる弄ばされていた。



「な、どうやって取りやがった…… ! ! ! 」


にこり、人の喰えない笑みを称えて。
ゆっくりベッドから降りて俺に一歩ずつ近づく。


「つながボンゴレボスになるのは嫌がってるし、僕も認めない」


一歩、また一歩。


「そして、家庭教師も嫌がってるし、僕も認めない」


はい、と銃を渡される、逆の手で白蘭は俺を捕まえようとした。

本能で察知して、避けようと上体を後ろに仰け反った、けれ、ど。


(………な、んだと… ! ! ? )


俺の動きを読んでたかのごとくさらに速い速度で。
俺の首根っこを掴んで。

なんと部屋の外へ放り投げやが、った ! !


「…、てめぇッ… ! ! 」


「部屋に入るのも、認めない、よ?」

ひらひらと手を振られ、扉を閉められてしまった。
閉める直前に、隙間から見えた琥珀色のボス候補はというと。

腹を抱えて爆笑してやがった。

クソ、いい性格してやがるじゃねぇか!


くるり、と体勢を立て直して1階に着地する。


白蘭、一体何者なんだ?
この俺に気付かれずに銃を奪いとったりなんぞ至難の業だ。



「調べる必要があるな……」



つなを懐柔するには、まずあの白髪の少年からだ。























「は、おっかし……」

未だにベッドに転がって笑う琥珀色に。
上から優しく覆い被さって、ぎゅっと抱きしめる。


「、びゃく?」

「僕もじゅーでん」


そっか、じゃあ消毒もしなくちゃね、とちゅっと頬にキスされた。
ふふ、と笑い合ってごろり、ベッドを転がってつなの横に寝転んで。


「つなは、実力を出しちゃ駄目だよ」

「びゃくは、出すの?」

「うん、僕に注意を引き付けとく」


大丈夫、僕の過去を探ったってなぁんにも出てきやしない。
復讐者でさえ分からないほど綺麗に抹消してあるからね。


「中学の入学式、明後日だよね」

「もしかしたら、色々と可笑しいことになってるかもしれない」


会うはずの人がいなかったり、会わないはずの人がいたり。


「まぁ、対策はしてるけどね」

「ぇ、そうなの?」

「まぁ楽しみにしててよ」


片割れの疑問符を落ち着かせて。



そっと、ふたり目を閉じた。

これからの人生の岐路となる中学生活へ思いを馳せて。








せんそうはすでにはじまっている
(そう、僕らが生まれたときからね)






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