夢、計らずとも



ピカチュウ?

ピカチュウ、どこへいくの。


次の街へ足を進めていた時に、急に駆け出した相棒。
小柄なくせにスピードが抜群に早い相棒は、もう姿が見えなくなってしまった。
一所懸命追いかけたはずなのに。

少し遠くでちゃあーとご機嫌な声が聞こえたのでひと安心。
息を整えて相棒の場所までゆっくり自分のペースで歩く。


「よお!レッド!」

「グリーン」


なるほど。
足元できゃっきゃと戯れているピカチュウとイーブイ。
あんな遠くからよく分かったね。


「どんだけ好きなの」

「え?」

「……え?ピカチュウとイーブイ」


あ、ああそっちね!と何故かわたわたしている。
変なグリーン。


「ピカチュウ、僕もイーブイに挨拶していい?」

ぴかぁ!と了承を得て。
イーブイを抱き上げて久しぶり、と視線を合わせれば。

ぶい〜と猫のように首元にすり寄ってきた。


「……イーブイ、俺にそんなことしなくね?」

「ぶい?」

「とぼけられてるね」

「お前ほんとポケモンに好かれるフェロモンかなんか出してんじゃねーの…」

他の俺のポケモンも出せってすごい五月蝿えし。
ベルトに付けてるボールがカタカタ揺れまくってる。


「皆に会わせてよ……勿論バトルでね」

「いーぜ」

にやりとふたりが笑えば、ピカチュウが空気を読んだのか僕の足元へ帰ってきた。


「ほら、イーブイ帰ってこい」

「………」

「……うちの子になる?」

「ぶい!」

「こらこらこらこら ! ! 」

誘惑すんな!と怒るグリーンはひとまず置いといて。
腕の中で幸せそうなイーブイに一言。

「僕とピカチュウと、遊ぼうよ」

ね?と頭をひと撫ですれば。
また後でかまってね!と目で訴えて、そのままグリーンの元へ帰っていった。


「さ、始めようか」

「……釈然としねぇけど…いくぜ!」



グリーンとのバトルは本当に楽しい。
(顔に出てないってよく言われるけど)

僕とは全く真逆の戦い方。
お互いのポケモンも、戦い方も分かってるはずなのに。
毎回毎回驚かされる。
ああ、こんな戦い方あるんだって。

圧勝は許されない、いつもギリギリの勝敗に。
心が最高に揺さぶられているのはきっと僕だけじゃないはず。



「だぁああまた負けた…」

「…よし、みんな頑張ったね」

褒めて褒めてと駆け寄る僕のポケモン達にお疲れさま、と頭を撫でてやれば。
グリーンの影に隠れておずおずと僕の方を伺い見るグリーンの手持ち達。

「……おいで?」

その一言でわっと駆け寄るグリーンの手持ち達。
僕のポケモンとも仲良しだからじゃれ合っている。


「ったく俺の手持ちはレッド好きすぎだろ」

傷心の俺を置いてお前んとこ遊びいくとか。


どかっと僕の隣に座る幼なじみ。
自然に空いた数cmの距離。

あれ?
おかしいな。

距離なんて、いつから気になりだしたんだっけ。

あれ?
横にいるはずのグリーンの顔がよく見えない。

何、どんな表情してるの。

何故か悲しそうな雰囲気だけは伝わってきて。

何を考えてるか分からない。



「レッド」


聞き慣れたはずの僕の名前。
なのに、違和感。


「レッド、なぁ」


あ、れ?

僕のポケモン達はどこへ行ったの?





「俺だって」





何、分からない。


分からないよ!





君の考えてることなんて分からない!


(だって自分の気持ちでさえ持て余してるのに!)







「……………ッド……」




























はっと目を覚まして。

ぐるりと周りを見渡す。
変わりない、風景。
ほの暗い洞窟に、明かりの先は雪景色。


「…ぴか…?」

急に起きた僕に驚いて、腕の中にいたピカチュウも起きてしまったようだ。



夢、だったのか。
夢、でしかないじゃないか。


あの、3年前。

何も分からず旅への期待と高揚感だけで生きた、あの日々。

この、汚い想いなんて。
気付きもしなかった、欠けがえの無い尊い日々。



君が、無邪気に笑いかけてくれた日々は、もう。

もう、戻らないなんて。


分かりきったことじゃないか。




僕が、君を好きになったばかりに。





ぼたり、ぼたり。

気付けば流れる涙に。

悲しそうに見上げる僕の相棒。


ぐがぁ、と鳴き声に振り向けば。
リザードンも、カメックスも、フシギバナも。
少し奥に寝ていたカビゴンも、エーフィも。
湖で休んでいたはずのラプラスまで。

皆、心配そうに僕を見ていた。



「ごめん、ごめん、ね」



僕の、弱い心のせいで。

皆をこんなところまで。


そう謝れば、そんなこと、と首を振るピカチュウ。



「……イーブイに、会いたい?」


その言葉に、目を見開いて少し俯いてしまった。
皆もグリーンの手持ちを思い出し、目を伏せてしまった。


「……ぴぃか、ちゅ」

答えなんて分かりきっている質問に、相棒は。
ゆるゆると左右に首を振った後、ぽすん、と胸に顔を埋めてしまった。

そっと、寄り添うポケモン達。

僕の心の隙間を埋めるように。
自分達の寂しさを紛らわすために。


「お前達は優しいね……」


ぎゅっと抱きしめれば。

また左右にふるふると首を振られてしまった。


































「レッドさん、旅に出ませんか?」

「……ぇ?」


いつものように金眼の少年がシロガネ山に登ってきて。
激しいバトルを僕の勝利で収めて。

ちょっとゆっくりしていきなよ、ってことでティータイムの時間。


「なんか最近暗いし、悩んでるっぽいし」

「ゴールド……」


表情が分かりにくいと言われたこの僕の心境を読み取れるほど、僕は落ち込んでいたのか。


「だから、気分転換に。ジョウト地方案内しますよ」

一時行ってないですよね?と笑いかける金眼の少年。


「……じっとマサラを見下ろしても何も変わんないスよ」


その言葉には、と目が覚めた。


そうか。
変わらないのか。

変わらない、んだ。


この、雪に埋めたはずの想いも。
溶けて無くなってしまえと祈ったはずだけれども。

僕のこの無様な立ち位置は、何も変化をもたらしてはいなかったんだ。


じっと、この白い白い世界の奥底で、息を潜めているのか。
春が、来るのを待っていたんだ。


そんなの、来るはずもないというのに。




「………行く、行くよ」

「レッドさん」


「案内、してくれる?」



はい、と明るく笑う金眼の少年に。




幼い頃、無邪気に笑う幼なじみを思い出したなんて。


そんなこと、言えない。





言える、訳がない。






しあわせなきおくだったはずなのに
(何故こうも苦しめるのか)






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