欲情を掬って



片割れの手を引いて帰路へと着く。

もう夕日は大部その姿を水平線の向こうに隠していて。
少しずつ暗闇が迎えに来ていた。

ああ、つなの母親が怪しむだろうなぁ、と嘆息しつつも。
意識は先ほどの世界の話と後ろから付いてくる片割れに注がれて。


骸クンの話から、すると。

つなを貶めた女の腹の子はボンゴレの血を継いでない、
基、つなの子供じゃないってのは守護者とアルコバレーノには伝わっている。

けれど、『婚約』の原因となった中学時代の暴行については無実が晴らされていない、はず。
証拠も何も無いのだから難しかったのかもしれない。

きっとあの時点でその話が出ても彼奴らは聞きやしないだろうけれど。



もし、もしもの話だけれど。

この先守護者と出逢っていく先に。


記憶を併せ持つ人出てきてしまったら。



とんでもなく面倒くさい事この上ならない。
頭ごなしにつなを罵倒するんだろうなぁ。

そんなの許さないけど、さぁ。



後ろでぐすり、ぐすりと泣く琥珀色。


可哀想に、目を真っ赤に腫らして。
ぐっと下唇を噛んで、悲しみに耐えているようだった。


この先も、こんな風に傷つくの?
この先、何回も心揺らすの?


分かるよ、分かりたいよ。


まさかあの状況で自分寄りだった守護者がいた嬉しさも。
その彼を疑っていた自分の不甲斐なさも。
嘆く彼を愛しく思う君の大きな器も。
巻き込まないように彼を突き放す優しさも。

彼との別れを悲しむその泪さえも。


分かり、たいけど。



他の人の為に泣く彼を容認できるほど、僕は出来た人間じゃなくて。
かといってこの嫉妬をぶつけるほど幼くもなくて。

歯がゆい、歯がゆい。


だから、慰めることも出来ず只黙って手を引いて。
彼の歩みを導けば。


ありがとう、と小さい小さい声で述べられた感謝の意に。


自分の心の狭さが露呈しているようで。



少し、泣きたくなった。


























「こんな遅くまで何してたの!」


玄関に響く怒号の声。

おかえり、の一言もなく怒鳴るつなの母親に。
心配の一言も無いの?と呆れ返るけれど。

まぁ、こんな人だから息子より赤の他人を信じるんだろうけどさ。


「つなが犬に追いかけられちゃって、ごめんなさい」

「え !? ツッくん大丈夫なの !?」


母親がつなを伺い見ようと手を延ばすけれど。
さっと僕の背に隠れてしまった。

その行動に軽く目を見開いた彼女は。

怒りたいのか泣きたいのかよく分からない顔をして。


「ほら、ツッくん。ママ怒ってないからこっちへいらっしゃい」


今の、あなたには罪は無いだろうけれど。
人の本質ってのは世界が塗り替えられても変わらない。
只、やり直しをしているだけなんだから。

きっと、またあなたはこの子を裏切る。

一番、信じなければいけなかったのに。

それが分かっていないあなたはつなの態度が不可解だろうけれど。
仕方ないよね。

それが過去に犯しちゃった罪の重さなんだから。


「……つな、ごはんいる?」

僕の言葉にふるふると頭を腕に擦り付けて。


「おばさん、つなに怪我はないし、ショック受けてるだけだから」

今日はもう休むよ、とふたりで2階に上がって。
つなを部屋に押し込んで、ちらり、母親の様子を振り返り様見てみれば。

ぎらぎら、まるで僕を仇かのように。
ドアを閉める最後の瞬間まで、嫉妬の塊で僕を睨んでいた。























ベッドに座り込むつなを、後ろから抱き込んで。
頭をつなの肩に埋めれば、ゆるり、顔を僕の方に向けた。


「びゃく、ごめんな」

もう、大丈夫。

ふわりと笑う片割れの目尻に雫が溜まっていて。
きらきら、月の光で涙の膜が張った瞳が金色に輝く。


綺麗だな、と心から思うけれど。

この美しさも他人の為なのかと思うと。



なんだかやるせない。












ぐるり、つなの身体を反転させて。
向かい合わせにベッドに座らせる。

膝が触れるほど近距離で視線を絡ませる。

僕の行動に理解が出来ないのかきょとん、と頬を赤らめて。



ああ、今の顔は僕に向けてだ、と思うと嬉しくって口元に笑みが走る。


やっと笑った僕に安心したのか、ふにゃり柔らかく笑って。
びゃく、と甘い声でおでこを僕のおでこに引っ付けて来た。



「そういえば、渡したいものがあるんだよね」


突然の一言に、何?と目を丸くさせる琥珀色。
これ、とそっとつなの両手に乗せる。


「ぇ、ボンゴレ、リング…… !?」

「気付いたら、手元にあったんだよね」


ほら、首から下げるマーレリングも見せると驚きの表情を見せた。


「うん、本物、だけど……」

「ボロボロなのはつなの炎を注入したら直るよ」


マーレリングもそうだったから、と述べるとほんと?と早速炎を注入し始めた。


「直った!」

嬉しそう、良かった。
きっとこれも世界の仕業なんだろう。

持っていたチェーンを指輪に通して、首から下げさせる。
お揃いだね、と微笑む片割れに、僕も微笑んでしまう。


「……でも、本物がここにあるってこと、は」

「なに?」

「ザンザス達ヴァリアーと指輪争奪戦ってのをするんだよね」

そのとき、どうなるんだろう。
これ、すでに完全体だし。

首を傾げるつなに、僕も首を傾げる。


「そんなのあったんだ」

「うん、ていうか今9代目がしてるリングは何なんだろ」

「……うーん、世界が偽物と入れ替えた、とか?」


後で幻騎士にでも調べさせようか。
アイツならちょっと無理な仕事でもしてくれるでしょ。


「俺がこの指輪をすることによって彼奴らにも指輪の力が使えるのかな」

「ゃ、それは大空次第だよ?」

大空の采配次第。そう宣えばそんな事出来るんだ、と感心された。


「ていうか初代守護者が黙ってないと思うよ」

「どういうこと?」

「ボンゴレボスを卑下した結果ボンゴレを潰した守護者に力を貸すと思う?」

「……確かに…ってか彼奴らにリング渡したくないなー…」


リングが可哀想だ、と嘆く彼の優しさに胸が暖かくなって。
そりゃあ初代達に可愛がられるはずだよね、と理解。


「じゃあそれも目的のひとつにしよっか」

「びゃく」

「リングは彼奴らに渡さない」


その言葉に、ぱぁぁっと花が舞い散るように笑う彼に。
答えるようにボンゴレリングとマーレリングがきらり、輝いた。























「さて、本題に入るけど」



ん?と頭に疑問符を浮かべる始終ご機嫌な琥珀色に。


ちゅっと軽く口づけをして。

何だよーと幸せそうに笑う彼の様子を伺って。
うん、いつもならここまで。

逃がさないように、両手で腰に手を回して。


ちゅ、ちゅ、と何回も唇を重ねて。

はぁ、と熱い吐息を口を開けた瞬間、に。
舌を割り入れて。

深く、深く彼の口腔を犯して。

いつもとは違うキスに、戸惑うけれど
ちっちゃい舌で応えようとする片割れの愛らしさに。



やばいなぁ、我慢、できないや。



少し、口を離せば。
どちらのか判らない唾液がつぅ、とお互いの口元を繋いで。

とろん、とした目が僕の欲を絡めさせる。


腰を支えていた手をゆっくり解いて、そのままベッドへ押し倒した。
覆い被さる僕に、事を理解したのか顔を真っ赤にさせて。


「……びゃく、その、」

「つな」




ねぇ、つなをちょうだい。




耳元で囁いた言葉に、真っ赤な顔をそのままに、涙を潤ませて。

「びゃく、俺らまだ12だよ、」

遠回しに待って、と制止をかけようとする彼にくつり、笑って。


「僕ら中身はいい大人じゃん」

待ってなんて聞かないよ、と述べればさらに潤ませて。

ああ、いい顔。
その涙は僕が泣かせたんだもんね。


「びゃく、なんで、急に」

「急、じゃないけどね、前の生からずっと君を抱きたいとはずっと思ってたよ?」


そんなこと思ってたの…と恥ずかしいのか眉が八の字になってしまった。

押し倒した手持ち無沙汰な両手をゆるりと絡めて。
落ち着かせるように甘く口づけを繰り返す。


「彼奴らに会う前に、ね」

「……守護者、のこと?」



「心も身体も僕に縛り付けときたいんだ」



彼奴らに、僕以外の人間に。

心奮わされないように。


まさかこんなに自分が嫉妬深い人間だとは思わなかった。











「だからね、全部、ちょうだい」











(他の奴のためになんか、泣かないでよ)





そう宣えば、月の光で輝く腕の下の片割れは。




「……全部、あげるから」


そんな顔するなよ、と僕の頭を掻き抱いた。





こんな感情、知らなかったんだよ。

ねぇ、僕の片割れ。




どうか、



どうか。








ぼくのこころのせまさをどうかきらわないで
(全部、全部僕のものだって証明させて)






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