爆ぜて、爆ぜて



足取りは軽い。

なんだか背中に羽が生えるほど(生えてるけどね)の浮遊感。
なんなら鼻歌だって歌ってもいい。


それほどに気分がいい理由はひとつしかない。


今僕が向かってるのは彼が生まれ育った町。

未来で敗北した僕は現代の時点でボンゴレに保護されたのだけれども。
保護っていっても保護じゃないよね。
今の僕には何の関係も無いっていうのに。
危ない芽は早いうちに摘み取れって?
冗談、危ない芽は危ないからこそ密やかに力をつけるものなんだよ。

まあ、この話は置いといて。

早い話が僕はボンゴレを脱け出した。
真6弔花を集合させて、ミルフィオーレの構築中。

なんでまた?ってそりゃあね。
マフィアの道に進む彼に会う為なら自分も裏世界に漬からなきゃね。

そしてやっと、ミルフィオーレの基盤ができて。
僕自身も未来の、とまでは言わないけれど力がついてきた。


自信がついた僕は、今だ、と決心して。

彼に、会いにいこう。
会って、仲直りしよう。

未来ではごめんねって。

仲直りして、友達に、なれたら。


それから、それから。

一緒に、笑い合えたら。



驚くかな、驚くよね、きっと。

期待に胸躍るけれど、不思議と不安は皆無で。
きっと、僕らは手を取り合える。

そんな、気がするんだ。

















……可笑しいな。

頭には疑問符しかない。

学校が終わる時間に門の前で待ち伏せ中。
門の前で待てばすれ違うこともないだろうと。
(なんだか人の視線が痛いのは気のせい?)


いない。

あの人だかりは、確かに未来で戦ったボンゴレの守護者たち、だよね?

煩い銀髪のが嵐。
陽気な黒の短髪が雨。
単細胞そうな茶髪の晴。
雨の肩に乗るのが黄色のアルコバレーノ。

人数が足りないけれど、多分彼らだったはず。


あの真ん中にいるのは、誰?
どう見間違っても彼じゃない。




「……ミルフィオーレ、ボス…?」

全然気付かなかった。
前方に意識を取られたせいか、後方から来るふたつの人影。


「やぁ、骸クンに…えーと…彼女?」

彼女にも同じ髪型を強要させるとはとんだ変態だね。

「彼女ではありません!彼女も霧の守護者ですよ」

「クローム髑髏です…」

焦る未来で戦った幻術師とその横で顔を赤らめる眼帯少女。
うーん、変態じゃなくて鈍感変態だったか。


「じゃなくて、何してるんです?」

明らかに怪しむ彼に、戦闘の意思がないことを示す為に両手を軽く挙げた。

「君らのボスに会いに来たんだけど、知らない?」

「……あの真ん中にいるじゃないですか」


んん?


「どう見ても知らない子なんだけど」

「……この間変わったの」


はい?

意味が分からなくてふたりに視線を向ければ、何とも言えない顔をしていた。

瞳がゆらゆら、揺れて。
どうすればいいか分からない、とでもいうように。


「どういう、こと?」




「ああああああああああああああ!!!!!」

せっかくふたりに事の真意を尋ねようかしたのに、今度は何?
ちらりと声がした方を見れば、先ほどの集団がすぐ目の前にいた。


「びゃ、白蘭!」

「なんでここにいるのな!!」

「てめぇボンゴレから逃げてどこに隠れていやがった!?」


喚く、喚く。
五月蝿くて堪らない。

僕のファミリーも騒がしいとは思うけれど比じゃない。
戦闘態勢を取り始める彼らの中にぽつり、異色の少年が守られるように立っていた。


「……ボス、変えちゃったの?誰、その子」

かちり、新しいボスに視線を合わせれば「ひぃッ」と震え始めた。


「ああ、ダメツナには見切りをつけてな、この"コダルド"が新しいボスだ」

…コダルド?聞いたことも、ない名前。


「ボンゴレ4代目の末裔で血筋もはっきりしてるのな」

「そうだ!沢田よりも濃いらしいしな!」

「コダルドに嫉妬して虐める馬鹿はボスの器じゃねーしな」


……いじめ、る?

あの、仲間思いの彼が?

意見を求めるように、後ろにいた霧のふたりに目を向ければ。
ゆるゆると首を左右に振られてしまった。


もう、何を言っても無駄だと。










「ワォ、誰の許可を得て群れてるの」


校門で繰り広げられていた他校生との騒ぎを聞きつけて。
雲の守護者まで登場したこの場に、他の生徒は散り散りになってしまった。


「よぉ、ヒバリ、吐いたか?」

「吐かないよ、すごい強情なんだけど」


どさり。


雲の守護者がずっと引き摺ってきたものを地に放して。

え?

なに、まさか。


あの、ぼろくずのように扱われて、いるのは。




「綱吉クン!!」


急いで駆け寄って、抱きかかえれば。

なにこれ。

軽い、この軽さは中学生の体重じゃあない。
顔も腕も、青く腫れ上がって痛々しい。
きっと見えない服の下も同じ状態?
赤く染まる服は全部彼の血に決まってて。


「つな、クン」

そっと、静かに呼べば、閉じられていた瞳がふるりと開いた。


「……ぇ、びゃく、らん?」


なんで、ここにいるの?と驚きに目が見開いた。


違うよ、違うんだ。
驚いて、欲しかったけれど。

見たかったのは、こんな顔じゃないよ。




「ダメツナ、意識失ったフリしやがって!」

「てめぇ早くコダルドに謝れよ!」

「早く認めて十代目の資格を放棄するのな」



十代目の、資格?
ということはまだ綱吉クンは十代目?

もしかしてこいつらだけが新しいボス擁立に騒いでいるだけ?



「……おれ、いじめて、なんか、ない!!」


ぎらり。

ああ、この目!
僕から仲間を助け出す為に戦いを決心した、あの!


まだ、まだ心は死んでないんだね。

まだ、まだ光を失ってないんだね。








「なに、まだそんな口叩くの」

冷たい、威殺す声が頭上で響いたと思ったら。
声と共にゴォッと空を切るトンファーが傷だらけの彼めがけて振り下ろされた。

視覚で捉えるよりも早く身体が動いて、
彼を傷つけようとした鉄の塊は僕の手の中に収まった。


「邪魔しないでくれる」

「なに、有無を言わさず暴力を奮う訳?」


ピリピリとした空気が場を纏う。
綱吉くんを庇う僕を彼らは敵認定したようで。
(元々敵だけどね)


「てめぇ何勝手なことしてんだ!!」

「庇うのならお前も同罪なのな」



「なにそれ」

クッと喉の奥で笑えば彼らを刺激したらしく何か喚いている。
だって、笑うしかないじゃん、こんな茶番!



「綱吉クンが苛めなんて馬鹿らしいことする訳ないでしょ」


後ろの綱吉クンの息を呑む音がした。
驚いて、いる?

意外だったのかな?
でも、そうとしか言いようが無いでしょ。


彼は愚かではないのだから。














まさに、一触即発の、その時。


遠くから、子供の泣き声が微かに耳に届いた。


「つっ、ツナを虐めるなぁー!!」

うわあぁぁ、と泣く小さな小さなこども。
綱吉クンの、知り合い?


「…ランボ……?」

小さな問いかけるその声に、首をひねる。


ランボ、と言えば確か雷の守護者。
あんなに小さい子供だったのか。

ランボ、と呼ばれた子供は、なにやら大砲を取り出して。
それを自身に向け始めた、と思った瞬間。



ドォォォォォォォォォン!!!!



その子供が転倒して大砲が暴発してしまい。
どこかあらぬ方向へ軌道は向かってしまった。


まさか、まさか。

その軌道が自分達のすぐ真上にあったなんて。














気付けば辺りは白いモヤの中。
喉が痛い。煙に目が染みる。

「綱吉クン、大丈夫?」

トンファーを手放して彼を手探りで探す。
白いモヤと砂埃で全く前が見えない。

「綱吉、クン」

返事が無い、のも焦る。
得体の知れない大砲がまさか直撃するなんて。

痛くはないし、怪我はしていないけれど。
(運良く僕には当たらなかった?)




少し、モヤが晴れて、視界も澄んできたその時。


ふわり、優しい手が。

僕の髪を撫でた。




「白蘭」


透き通る声。
今より少し低いテノール。

綺麗に、綺麗に笑う、琥珀色。

柔らかい眼差しに僕を映して。


ただ、ひとつ違うのは。

どう見ても、彼は未来で僕と対峙した、







「……ダメツナ!?」


その声に驚いて、ボンゴレの方を見れば、皆呆然としていた。
そうか、未来の彼には会っていないのか。

未来の彼、ということはあの大砲は。
ボヴィーノ秘伝の武器、10年バズーカ!



「ふふ、ちょっと幼いな、可愛い」

守護者達には目もくれず、変わらず一心に僕を触り続ける琥珀色。
さすがに恥ずかしい。ていうかなんか距離が近い。
なんなの、未来では僕らこんなにフランクなの?

「なに赤くなってんだよ、あ、そうかまだこの時か…」

にやにやする彼に悔しいけれど仕方ない。

本当に綺麗というか妖艶で。
あの可愛いちっちゃい子がなんでこーなってしまうのか。
手足はスラリと伸びて(僕よりは小さいけれど)、
あの明確な意思を持った瞳はさらに輝きを帯びて。

まさに頂に相応しい品格を伴えば。


そりゃあ10年前の彼らにとっては別人にしか見えないだろう。
(僕だって狼狽えるよ!)




「ダ、ダメツナ……てめぇその格好は…」


黄色の赤ん坊が青ざめている。
その言葉に守護者達もハッと気付き、顔を赤くさせた。



「…やぁ、10年前の守護者達」

貴重な5分間白蘭を弄りたかったのにーと僕に触れている手を離し、
守護者と赤ん坊の方に身体を向けた。


「挨拶は不要かな?……ボンゴレボス10代目、沢田綱吉だよ」

見ればすぐに分かる。
その身につけた物は全てボンゴレの紋章が入っており。
翻したマントにグローブは明らかに初代譲りのソレ。

先代達に劣らない威厳を放つ彼はまさしく。



「そんな!僕がボスじゃないの ! !」

青ざめる新しいボス"コダルド”に、10代目はハッと鼻で笑い、見下した。


「誰がお前みたいな奴に譲ると思うんだよ」

ねぇ?と可愛く首を傾げられても。
そうだね、と答えるしかない。


「なんだその言い草は ! !」

「俺らは認めねーぞ ! !」


彼の威厳に怖じ気づいたのか、一歩も動かずに口だけを動かして。
なんて無様なんだろう。


「ふふ、君らに認められなくてもいいよ」

「は?」


「俺が率いる組織の未来に君たちの姿は無いからね」


え?

え?


どういう、こと?

守護者達の顔が引きつる。



「俺を信じられない部下なんて要らないよ?」


ねぇ?とまたしても可愛らしく首を傾げて。
やっぱり僕はそうだね、としか言えなくて。

僕を見る眼はとても優しいのに。
彼らを見下す眼の冷たさと言ったら!



「そんな!本部はダメツナを庇いやがったのか ! !」

アルコバレーノの俺の助言を無視しやがって ! !


赤ん坊の身体が小刻みに震えている。
悔しい?悲しい?怒っているの?

そりゃあそうだよね。
正しい己の言葉を聞かない生徒に、
正しい己の助言を無下にした組織に。

見切りをつけた生徒がこんなにも成長していることは。


屈辱でしかないよね。



「リボーン、お前がそう思っているならそれでいいよ」

「なんだと」


「……アズフォールファミリー、3代目の末子。ここまで言えば分かるよね?」

なんたって俺のセンセイだもんね。
世界一を、掲げる、ねぇ?


「アズフォール、ファミリー……だと!?」

「それがどうしたんスか」

「……人体実験、人身・麻薬売買とタブーを犯すファミリーで、復讐者が全員取っ捕まえた、はずだが」


ちらり。
皆の目がコダルドに集まる。

青ざめている少年は、明らかに様子が可笑しくて。


「…コダルド?」

「し、知らない ! !そんなマフィア知るもんか ! !」


怪しい。
皆が皆、少年に懐疑の目を向ける。


ていうか、早くない?
さっきまで懐いていたのに、未来の綱吉クンの一言で疑うなんて。
ボスを簡単に裏切る奴らだから仕方ないのかな?


「まぁ、調べるかどうかは好きにしてよ」

ていうか5分たったよね?ボヴィーノのボスの好意かな?なんて、
にこやかに笑う彼に。

『調べても調べなくても変わらないけどね』と述べられていることに
守護者と赤ん坊は気付いていないだろう。




「ボス……」

「綱吉、君……」


ゆらゆら。

未だに瞳が揺れる一対の霧の守護者。



「クローム、骸」

にこり、柔らかい笑みを彼らに向けた。
駆け寄って、ふたりの手を優しく握って。

罵倒されるかと思ったのか、びくり、肩を震わせたふたりは。
暖かい未来のボスに、目を見開いた。


「大丈夫、分かっているから」


過去の俺も、分かってるよ。
お前らが俺の味方をしてしまったら、人質である仲間がどうなるか分からないって。


「ありがとう、信じてくれて」


「ボス、ごめ、ごめん、なさい…!」

「綱吉君、君って人は…!」


ごめんなさい、ごめんなさい。

手を差し伸べられなくてごめんなさい。
怖くて、でもどうにかしたくって。

敵でも味方でもないフリをして遠くから見守って。
ひどくなりそうならわざと乱入して邪魔して。

そんなことしても何も変わらないというのに。
君の傷は増えていくばかり。


「許して、くれるんですか」


「許すも何も、俺は感謝してるんだよ」


ぽろぽろ、年甲斐も無く流す霧の涙をすくって。
ぎゅうっとふたりを抱きしめた。


「クロームと、骸。ふたりはずっと俺の霧でいてね」


王様の永遠を約束する言葉に。

裏切りの烙印を押された霧の守護者は嬉しそうに頷いた。




















「あ、そろそろかな」

10年後のボンゴレボスの周りから煙が出始めた。
くるり、僕の方に向きを変えて近寄ってきた。


「白蘭、ありがとう」

「僕は何もしてないよ」


お前はお前の有り難みを分かってないからね、と微笑まれた。

そっと、触れられる、手に。
ゆっくり、ゆっくり指を絡めて。

まさか。まさか。
そんな優しく触られたら期待しちゃうのはいけないこと?



「……僕のこと、好きなの?」


ああ駄目だ、きっと声が震えた。
顔が火照る。

繋いだ手から熱が伝わってしまう。



「その答えは、過去の俺に聞いてよ」

きっと、泣いちゃうけれど。
優しく、抱きしめてやってよ。



煙が濃度を増す。

待って、待って。
気持ちがまだ通じてない過去の君に僕の気持ちを伝えるにはまだ勇気が要るよ!


だって、そこまで欲すのは間違いだと思っていたのに。

友達だって、笑ってくれたら。
それで良かったのに。


その先は分からないけれど、満足だったのに。

この欲しいという心は、見ないフリをしていたのに。






「僕の、僕のこの気持ちは、君にとって足枷にならない?」



頑張るよ、もっと、もっと。

君に釣り合うように組織だってもっと大きくするし、
君に咎められないようにもっと優しくなるよ。

君を守れるように、もっと強くなるよ。


でも、だけど、だけど。

この、気持ちは、頂に立つ君に重荷にならないか不安なんだ。




「馬鹿だなぁ、そんなこと言ったら弱っちい過去の俺はどうなるの」


未来を突き進むお前の邪魔にならないかなって、思っちゃうよ。

ねぇ、肩書きも、強さも。
そんなことを頭に入れて好きになった訳じゃないでしょう?



「大丈夫ー…あ、もうやばい消える」

じゃ、頑張れよ!と爽やかな笑顔でモヤの中に消えていく未来のボンゴレボス。
なんか、最後あっけらかんとしすぎじゃない?
答えをちゃんともらってないし。

ああもうどうしろっていうの。









「……白蘭」


悩んでいるうちにモヤは晴れて現代の綱吉クンが帰ってきた。

ん?
なんか様子おかしくない?


「……なんでそんな顔赤いの」

「ぇ、いや、白蘭が」

「未来の僕になんかされたの ! ?」


あわあわと照れからか真っ赤の琥珀色。
(なんか傷が軽く治ってる?)

ああああムカつく!
何やってんの未来の僕 ! !


「なに、されたの」

「いや…」


言うまで離さない、と近づいて手を握ればさらに赤くなる顔。


「や、何もされてないよ…」


涙目の彼の説得力の無さ。
姿勢を屈めて顔を覗き込めば、うぅ…と今にも泣きそう。


「だって、白蘭が、白蘭が」





「「ツナ!」」

「十代目!」
「沢田!」




え。

あり得ないんだけど。

なにその空気の読めなさ加減。
ホント殺したい。


後ろにいる霧と雷の子供でさえ白けた顔をしている。



「白蘭てめぇ十代目から手を放せ!」

「ダメツナ、コダルドは本当にアズフォールファミリーだったぞ、よくやった」

「コダルドは俺らがとっちめてやったのな!」

「最後まで認めず男らしくなかったな!」


べらべらと勝手に己の意見のみを喋る、謝りもしない守護者と赤ん坊に。
ぽきり、指の骨を鳴らして黙らせようかと足を進めようとしたけれど。

すっと繋いでいない手で諌められた。




「五月蝿い」


たった、一言。

未来で何があったか知らないけれど、王者の風格を見せ始めた彼に。
誰も言葉を発せなかった。



「今、裏切りとかどうでもいいから。お前らの戯言なんて聞く気ないし」

クローム、骸。
分かるよな?


はい、と頷いた霧の守護者は、雷の守護者を守りつつ。
僕らふたりと他の守護者達の間の壁となった。


「すみません、ボスの命令なもので」

「……堕ちて、ね」


ドォン!と激しい音と共に火柱が立つ。
これで完全に姿も声も通らなくなってしまった。

アルコバレーノをも幻術にかけるとは。
さすが随一の幻術師。

















しん、と静まり返る世界。
まるでふたりしかいないみたいだ。

意識し始めたら、自分の心臓の音しか聞こえなくなってしまった。


未来の彼に後押しされたけれども。
それでもやっぱり緊張するものはするに決まってる。



「ありがとう」

ぼそり、呟かれた言葉。
驚いて、彼を見ると、泣きそうに笑っていた。


「嬉しかった」

何に感謝されているのか分からなくてきょとん、としていると、
分からない?と微笑まれた。


「未来に飛ぶ前、守ってくれた」


………俺を、信じてくれたね。


少ししか面識は無いはずなのに。
ずっと一緒にいた守護者や家庭教師はあんなに簡単に裏切ってくれたというのに。

虐めてない証拠なんか持ってやしないのに、信じてくれた。



「ありがとう」

「だって、そんなの当たり前でしょ…君の人柄を見てれば」

「白蘭にとっては当たり前でも彼奴らに取っては凄いことだよ」


そんなことは、無い。

そんなことより、
少ししか面識が無い僕らがまるでずっと傍にいたかのように
喋っていることのほうが凄い、と僕は思う。


言葉を重ねる度に近づく距離。
綺麗な琥珀色に僕が大きく映る。
先ほどまで会話していた未来の彼と同じ瞳。

少し未来の方が意思の強さを思わせるけれど、
やっぱり優しい、やわらかい、いろ。


どちらからともなく。
距離はゼロになる。

そっと、触れるだけのキスをして。





「……おれのこと、好きなの」

「……好きだよ」


どうしようもないくらい、好きだよ。



「……ぼくのこと、好きなの」

「っ、好き、大好き」


どうしようもないくらい、好きなの。




「なんでこんなぼろぼろになってまで十代目止めなかったの」

ごめんね、もっと早く助けに来ればよかった。
そう宣えば、嬉しそうに笑った。


「だって、ボスにならないと会えないと思ったから」

「え?」



「白蘭に、もう一度会いたかったんだ」



そんな、まさか同じ理由で頂に立とうとしていたなんて。
あんなに嫌がっていたのに!

僕のためだなんて。



「もう会えたけど、やっぱりボスになるの?」

その問いにはうん!と元気よく頷かれた。


「あの未来なら、手に入れたいなって」

「……どんな未来だったの?ていうか未来でなにされたの」



さっきみたいに、ずいっと顔を近づけて言わせようとしたけれど。
「うーん、秘密!」と綺麗に笑われてしまったものだから。

まあ、未来になれば分かること。


ゆっくり、ふたり手を繋いで歩いていこうか。








(そういえばボヴィーノのボスにお礼しなくちゃ)


(なんで?)


(僕らのキューピッドでしょ)


(……訳分かんないと思うよ?)







まさかまさかのみらいから
(後で雷の子にもお菓子あげなきゃね)






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