崩壊する世界に立ち尽くす



気付かなかった。誰ひとり。
気付けなかった。皆が皆。

もうすでに自分達の王がこの世界に別れを告げていたなんて。


いなくなってから、自分の気持ちに気付くなんて。


そんなの、そんなの。


愚かの極みではないですか。
















「いたか!?」

「極限にいないぞ!!」

「どこにいきやがったあの野郎」


ばたばたと走り回るボンゴレの場内。
煩わしいほどに大勢の下っ端までもが探しまわる始末。


「骸様も探してください」

「おやクローム何故お前はそんなに必死なのです」

息を切らしてボンゴレの頂を探す目の前の少女。
あの事件が無ければ彼女はあんなに彼に懐いていたというのに。

「だってまだ許してません、みんな」

私たちを裏切ったのだから。
あんなに、あんなに彼のために傷だらけになって、
彼を守るために力を手に入れたのに!


ぎらり、眼帯に隠れていない片目が怒りの色を映した。

もうきっと、彼女は僕の話をこれっぽちも信じてはいないでしょう。
その前に聞いてもいない。

綱吉君は無実ですよ、と。

まぁ、証拠も何も無いのだから信憑性に欠けますが。
仕方ない、僕も中立の立場を取って証拠集めなんてことはしなかったのですから。

リリスとかいう女がボンゴレを牛耳ってくれればボンゴレが堕ちるかと思ったし、
その前に綱吉君が反旗を翻せば気に食わない女よりは彼についていくつもりだった。
けれど綱吉君がおとなしくボンゴレの、皆の言うがままになってしまった。
大空らしい光り輝く瞳は地に伏せられて、まるで死人のようだった。

堕ちるかと思ったボンゴレは、影で綱吉君が人一倍こき使われて、
巧いこと軌道修正が出来ていた。

勿論それは外見上、の話だったけれども。
ボスを足蹴にする組織なんてうまくいく訳がなくて。
内部は綻びが目立っていた。

こんな状態ならすぐにでも彼の身体を乗っ取って、
ボンゴレを破滅させれるのではないかと考えたけれども。
ある時から地に伏せられていた瞳が輝いていたから。
その光は僕らに向かってはおらず、どこか彼方を照らしていたけれど。
その変化に期待して、まだ傍観者の位置に立っていた、のに。


それが、この結果だなんて。
もう笑いしか出てこない。


いない、いない。
どこを探したって君がいない!

空っぽの玉座に誰が座れるというのです。
あんな、血まみれの頂に座せるのは選ばれた人間だけ。




逃げ出しやがった!と罵倒する他の守護者達を横目に、
僕には探す気力なんて塵にも等しかった。



逃げる?
それも良かったのかも知れませんね。

なんで反旗を翻すことに固執していたのでしょう。

今独りでしょうか?
あんなぼろぼろでどこまで逃げ切るというのでしょうか。



なんで、

なんで、




なんで一緒、に




「ミ、ミルフィオーレボスもいません!!」


意識が引き戻される。

場内に響いた雷の守護者の声に、場は騒然となってしまった。


「なんだと!」

「逃げないように足も羽も取ったんじゃなかったのかよ!」

「まさかソイツが沢田を連れていったんじゃないの」


慌てふためく守護者達の声が遠くに感じられた。




無理だ。

無理に決まっている。



あの、近づきたくはない実験室。
昔の記憶が呼び戻されるようで、自然と足は遠のいていたのだけれど。

一度だけ。
ふらりと立ち寄ったことがある。


傷ひとつ付けられなかったあの神に成り損ねた化け物に、
この組織は一体何をしているのか気になって。


見なければよかった、とすぐに後悔することになるのだけれども。


白い無機質な部屋には。

たくさんの管と、たくさんの液体と。
手術道具もあちらそこらに散らばって。

血まみれのシーツも包帯も取り替えることは無く。

明らかに気まぐれに彼の身体を弄んでいるのが分かって。


かすかに、本当にかすかに生を繋いでいた、彼が。


綱吉君を連れていける訳がない。












………?

あ、れ?


綱吉君、とミルフィオーレボス。

何か、何か大切なことを忘れているような…?











ドォォォォォォン!!!


「なんだ!!?」

基地のそう遠くはない場所で大きい爆発音。
近いところで部下達の叫び声も聞こえ始めた。


「た、大変です!!」

「どうした!?」



「ミルフィオーレが全勢力で攻めてk…ぅああああああ!!」


硝煙と血の臭いが鼻を擽る。
いつまでたっても慣れはしない、慣れたくない臭いに自然と眉間に皺が寄る。

ミルフィオーレの全勢力。
ボスを助けに来たのでしょうか。



遅い、遅いんです。

もう、彼らが崇拝する神様も、僕らが汚した王様も。




どこにもいない。









かつり、音がした。

数多の気配と足音の鳴る方向へこの部屋に残る守護者達は一斉に振り向いた。



「……ご機嫌麗しく、ボンゴレの皆様」


真、6弔花!!
ミルフィオーレボスしか存じ得ぬ存在だった彼らが一同に揃っている。

焦燥、しているのは一目同然だった。
5人が5人とも(仮面はよく分からないが)目が死んでいた。

ボスに付き従っていた彼らはあんなにも意気揚々としていたのに。

悲観に暮れる双眼をどうにか意地だけでこちらを睨みつけて。



「……奪い、返しにきました」



「!!?」

「……お前らのボスならいねぇぞ、どっか行きやがった」


その言葉に、ブルーベルとかいう少女はぎゅうぎゅうと
デイジーのぬいぐるみを抱きしめて。

嗚咽を漏らし始めた。



その只ならぬ雰囲気に、ボンゴレの守護者は言葉が紡げず。

ボスがいなくなった、だけなのに?
いや、人体実験をしてしまったことに気付いて怒っているのか?


「……ええ、よく存じ上げております」


知っている?ということは白蘭はミルフィオーレに戻って、いる?



「おい!桔梗!!お前のところのボスがうちのボスを連れていきやがったんだぞ」

どう落とし前付けるんだ、と黄色の赤ん坊が宣った。



その言葉にはて、と首を少し傾げて。

「それは存じ上げません、我等は主の居場所を知りませんので」


後ろでデイジーとかいう不死身の少年がボス、ボス…と呟いている。
虚ろな目に、何を映しているのだろうか。






「……私達が奪い返しに伺ったものは」



『主の誇り』






ぎらり、10の瞳が剣呑に鈍く光る。
瞳からぼたぼたと大粒の涙が溢れる。
それには厭わず、しっかりとボンゴレの守護者とアルコバレーノを見据える。


「許さない」

「許さない」


「許しはしない」




次々に憎悪の口にする彼らのあまりの気迫に。
誰も動けなかった。

そんなに、心酔していたのかと。
きっと、彼らにとってのあの化け物は。

唯一の神であり、唯一の親であり、唯一の世界だったのだ。




「……今日は只の挨拶です…明日より我等の復讐劇をお見せしましょう」


真6弔花リーダーは肩を翻し、他の4人を引き連れて去っていった。




誰も、何も言えなかった。
言えるはずがなかった。


彼らの主を弄んでいた事実も、
彼らの主に対する崇拝も、
自分達の主に対する暴虐にも、

目を背けたかったから。





明日。

あの夕日が沈んでまた再び僕達を照らすとき。


戦争が始まる。

きっと、今までに無い大規模な戦争が。


それはそうだ。

引き金にも、ストッパーにもなるお互いの主がいないのだから。
方向が見えない戦いは憎しみも悲しみも彼方此方に散らばって終末が霞んでしまう。



加えてボンゴレのボスがいないという状況。
つまり大空がいない。

戦争が始まるというのに指輪の力が発揮できない!



















ドンドンドン!!!

焦る守護者とアルコバレーノが明日からの戦争をどう切り抜けるか
話し合い中、けたたましく扉を叩く音が響く。

「なんだ!今大事な会議中だぞ!!」

嵐の守護者が怒りながらも扉を開けると。


「お客様が…」

下っ端の少し後方には。



「ユニ!!」

「ユニじゃねーか、どうしたんだ!?」


顔色が明らかに悪い、大空のアルコバレーノ、ユニがいた。

「リボーンおじさま…」




助けにきてくれたのか、そうだ、ユニ、ミルフィオーレを止めてくれ!
など自分の好き勝手に喋り始める守護者達と黄色のアルコバレーノを見回して。



「なぁ、ユニ…」


一通り皆の発言を聞いた後、少し伏せていた、顔をあげて。

ぎろり、先ほど見た真6弔花と同じ目をした、大空の少女が、そこにいた。




「何を、したのです」




「え?」

「何をって…」





「貴方達は!!何を!!」



見たことがない気迫の少女に、皆驚いて。

「ユニ、落ち着けって」

雨の守護者と霧の少女が優しくユニの肩を諌めるけれど。
その手をなぎ払ってさらにいきり立った。



「貴方達は!!取り返しがつかないことをしたのですよ!!」



息が、荒い。

肩で息をする少女の目が血走っていて。



彼女のおしゃぶりはあんな輝きだったか?

あんな、今にも、事切れそうな、







ごぼり、








ああ、そうか。

綱吉君と、ミルフィオーレボスと、目の前の少女。







「大空のふたりを穢しましたね……!!!」








ごぼり、









世界を構成する"大空"が、至高の存在だなんて。







ごぽり。


血を吐く少女を目の前に、やっと気付いた僕達に。

ひとつ、血の混じる涙を流して。





「もう、遅い」



ゆっくりと、その華奢な身体を地に伏せた。









おおぞらがかけたそのせつな
(世界が小さく泣いた声がした)






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