「シャンナムカに来るのは久しぶりだな」
秋弦が隣に立つ佐威に話し掛けた。
「また来ることになるとはな」
佐威が無表情でそう返すと、秋弦はふっと笑った。
「なんだい、もう来ねえつもりだったのかい」
「そりゃそうだろ。つか、そもそも来る理由がねェ」
「あるだろうよ」
二人の視線の先には、シャンナムカ国の姫の一人、タオが居た。
数ヶ月前の「事件」、そして別れ。
佐威とタオが顔を合わせるのは、それ以来ということになる。
タオには、もう会わないつもりでいた。
本意では無かったにしろ、自分の言動で酷く傷付けてしまった相手だ。
謝って許して貰えた。それで安心し、心の中にずっと巣食っていたわだかまりもようやく消えた。
自覚していた彼女への想いははっきりとは口にしなかった。ただ自分の中に封じ込めて、そのまま忘れようとした。
ーーの、筈だったが。
秋弦に半ば強引に連れ出された。
「サイちゃーん!後でお話しようねー!」
人目もはばからず、自分の名前を大声で呼び、笑顔で手を振るタオを見ていると…。
誰に言われなくても、顔が熱くなるのが分かった。
周囲の者からの注目を一斉に集めてしまう。
隣では秋弦が楽しそうに笑っていた。
「はははっ、可愛いお姫さんだな。おい、何か返してやれよ」
「うっせェな」
軽く頭を下げてやり過ごす。
話…一体何を話せばいいのか。
シャンナムカの高官達との挨拶も終えたところで、タオが走ってやって来る。
「サイちゃん、来て来て!」
「なっ…オイ、姫様」
手を引かれ、案内されたのは整然とした、広く開放的な部屋。
「シャンナムカで過ごす間はここがサイちゃんのお部屋だよ!タオ、遊びに来るからね」
にこにこと笑うタオとは反対に、佐威は戸惑っていた。
「…あの。一国の姫様が、あんまりそういう事はしない方が良いんじゃないですかねェ」
「え?どうして?」
きょとんと、目を丸くするタオ。
「周りの目があるでしょーよ」
「タオ気にしないよ!だってサイちゃんとたくさんお話したいもん!」
「だから…!」
佐威の手を取り、その後の言葉はタオが遮った。
「……もう会ってくれないかと思った。サイちゃん。会いたかったよ」
泣きそうな笑顔で、タオが呟いた。
その顔を見た時に痛いほど実感した。
「……姫様…、一緒に来て欲しい所があるんだけど」
「え?」
「そこで話したい事がある」
佐威の顔を見詰め、タオが頷いた。