紅の過去





小さいころからの父と母の教えは、「人には優しく」でした。口酸っぱく何度も言われるうちに自然と自分の行動に定着していました。
父と母の仲はとても良かったのです。

小学校低学年までは。

口喧嘩して虫の居所の悪かった母は私によくあたるようになりました。暴力は振るわれていませんでした。

「貴女さえ居なければ、すぐにでも別れていたのに」

そう言った後、母は決まって凄くばつが悪そうな、悲しそうな顔をするのです。


(私さえ、いなければ…おかあさんは、楽になったの、かな。……私が居なければ、)

引き出しに入っていたカッターを取り出して、死んでしまおうかと思いました。でも、死ぬのは怖くて浅い傷しか付けられません。

いくら浅くても、痛いものは痛いのです。それから何度も何度も切るようになりました。

小学校高学年にあがると口だけだった喧嘩が、暴力に変わりました。父は、母にも私にも暴力を振るうようになりました。耐え切れなくなった母はついに離婚に踏み切りました。
私は母に引き取られました。離婚した後の母はとても良く笑うようになり、明るくなりました。

その姿を見て、安心しました。私も少しは落ち着いていました。ですが、心にたまった言葉の鉛は重くて自傷も続いていましたし、母がまだあの言葉を言うんじゃないか、その不安に苛まれていました。

そんな不安定な時期が続いて、あるとき中学のクラスメイトが「死にたい」、そう呟いたのです。

「死にたいなら、私が殺してあげましょうか」

クラスメイトを引き倒し、首に手をかけましたがまだまだ力が足りなくて、未遂に終わりました。


そのときの私は精神状態も思考も狂っていたと、あとになって思います。

この学校に来てから、母が居ない。それだけで枷は軽くなりました。急にくる不安に襲われることはなくなりましたが、自傷は止まっていませんでした。


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