それが恋だと

「終わらない…」
彼女はそう呟き面白くないような表情をしていた。
彼女の机にある書類の山はまだ片付いておらず、マグカップのコーヒーも半分残ったまま冷め切っていた。

「さっきから進んでいないようだが?」

「ワタル様こそ私のこと言えませんよね」
さっきから机に山積みの書類減ってないですよ、と悪戯っぽく笑う名前。

「…好きで貯めたわけじゃない」

「まぁ、そうですよね。…私も好きで書類貯めたわけじゃないですし」
チャンピオン権限で書類少なくして貰えるととてめ嬉しいんだけどなぁ…と言いながら彼女は冷めたコーヒーを啜る。
「…やっぱ冷めたコーヒー飲めたもんじゃない」

「新しいコーヒー、入れようか?」
そう俺が尋ねれば名前は冗談っぽく、チャンピオンにそんなこと頼めませんよと笑う。
そして名前は立ち上がり、自分のマグカップと俺のマグカップを持ち給湯室へと向かった。
しばらくして名前は二つの湯気が立つマグカップを持ち帰ってきた。
そして名前は俺にコーヒーが入ったマグカップを渡し書類が山積みになっている机に戻っていった。

名前から貰ったコーヒーを一口飲めば口の中に程よい苦さが広がる。
名前が淹れるコーヒーはとても美味しい。毎日飲んでも飽きないくらいだ。

「…名前が淹れるコーヒーは本当に美味しいよ、毎日飲みたいくらいに」
俺がそう言えば名前は目を丸くし、驚いた表情をしていた。
そして少し照れながら、ありがとうございますと小声で返してくれた。
名前の照れた表情を初めて見たものだから、不覚にも少しドキッとしてしまった。
名前を見てそんな感情を抱くのは…と罪悪感を感じ残りの書類を早く片付けなくてはと作業を進めたが、その日はあまり作業が進まなかった。

まぁそんなこともあるだろうと思っていたが、次の日も、そのまた次の日も名前と目線が合うたびに調子が狂ってしまい仕事にならなかった。
理由がわからず俺はしばらく困り果てていたが、後日、それが恋だということを知りまた俺は困り果てるのであった。

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